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問屋における代理の規定の準用 [平成22年度司法書士試験筆記試験]

 代理に関する規定の準用

 商法552条は,問屋と委託者との間においては代理に関する規定を準用するとしています。すでに述べたように,問屋と代理とは法形式上は,全く異なるのですが,販売又は買入れが委託者の計算で行われることから(経済的効果,問屋と代理の経済的実質の類似),このような規定が置かれているものと考えられます。

 しかし,問題は,この規定によって,代理に関するどのような規定が準用されるかどうかです。難しい問題です。まず,民法107条2項の復代理の規定が準用されるかどうかの問題があります。まず,復代理人に関する民法107条2項(復代理人は,本人及び第三者に対して,代理人と同一の権利を有し,義務を負う。)が準用されるかどうか。すなわち,甲から物品の販売の委託を受けた問屋Aが,問屋Bに当該物品の販売を再委託した場合に,甲は,民法107条2項の準用により,Bに対して直接権利を主張することができるかどうかです。最高裁判所は,これを否定しています。

 最判昭和31年10月12日
「問屋と委託者との法律関係はその本質は委任であり商法522条2項が両者の間に委任及び代理に関する規定を準用すると定めているのは,委任の規定を適用し,代理の規定を準用する趣旨であり,そして代理に関する規定中民法107条2項は,その本質が単なる委任であって代理権を伴わない問屋の性質に照らし再委託の場合にはこれを準用すべきでないと解するを相当とする。」


なお,最判昭和49年10月15日は,「商品取引所の取引員は法律上の問屋であるから,同人が取引所において自己の名で売買取引をしたときは,委託者の指図に基づかない場合でも,取引自体は法律上の効力を生じ,委託者は,取引員との関係でその取引による計算が自己に帰属することを否認することはできるが,その取引自体を無効とすることはできない。」としています。

 一番問題となるのは,問屋が破産した場合の問題です。すなわち,問屋が委託に実行によって取得した権利を委託者に移転する前に問屋が破産した場合に,委託者は,この権利を破産財団から取り戻すことができるかどうかです。争いがありますが,最高裁判所は,これを肯定しています。

 最判昭和43年7月11日
「問屋が委託の実行として売買をした場合に,右売買によりその相手方に対して権利を取得するものは,問屋であって委託者ではない。しかし,その権利は委託者の計算において取得されたもので,これにつき実質的利益を有する者は委託者であり,かつ,問屋は,その性質上,自己の名においてではあるが,他人のために物品の販売または買入をなすを業とするものであることにかんがみれば,問屋の債権者は問屋が委託の実行としてした売買により取得した権利についてまでも自己の債権の一般的担保として期待すべきではないといわなければならない。されば,問屋が前記権利を取得した後これを委託者に移転しない間に破産した場合においては,委託者は右権利につき取戻権を行使しうるものと解するのが相当である。」

 商法552条で問屋と委託者との間で代理に関する規定を準用すると定めた意味について,コンメンタール商行為法P279は,「買入委託の場合に問屋の買入れた物品または債権が問屋から委託者への特別の譲渡行為なくして,問屋と委託者との間においては,委託者に帰属するということ,及び代理人と本人との対内関係に関係する若干の規定,すなわち復任権に関する規定(民104条・105条)が適用されるということである」としています。