SSブログ
後見制度 ブログトップ

任意後見制度 最終回 [後見制度]

任意後見契約の終了 つづき

法定後見開始の審判等
 任意後見契約が登記されている場合には,家庭裁判所は,本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り,後見開始等(後見開始,保佐開始,補助開始)の審判をすることができるとされています(任意後見法10条1項)。本人保護と本人の意思の尊重の衝突の一場面ですが,「特に・・・限り」とあるところに,本人の意思の尊重を優先していることがうかがえます。後見・保佐・補助開始の審判の請求は,任意後見受任者,任意後見人又は任意後見監督人もすることができます(同条2項)

 では,後見開始・保佐開始・補助開始の審判が行われた場合に,任意後見契約はどうなるでしょうか。

 任意後見監督人が選任される前か後かで異なります。任意後見法10条3項は,任意後見人が選任された後(つまり,任意後見契約が効力を生じていた場合)には,任意後見契約は終了するとされています。任意後見人と法定後見人等の権限の抵触を避けるためです。

 これに対して,任意後見監督人が選任されていない場合には,後見開始の審判等があっても任意後見契約は終了しないということになります。

委任契約の終了事由
 任意後見契約は,委任契約ですから,委任の終了事由に関する民法653条の適用があります。そこで,任意後見契約は,次の事由の発生によって終了します。

1 本人又は任意後見人の死亡
2 任意後見人が破産手続開始の決定を受けたこと。
3 任意後見人が後見開始の審判を受けたこと。

 任意後見契約の効力が発生した後に,本人の死亡によって任意後見契約が終了するということは,言ってみれば当然の想定事項だと思われますが,任意後見の効力が発生する前に本人の死亡によって任意後見契約が終了するということは,当然の想定事項とは言えないと思います。後者が結構多いのではないかと思えるのですがどうでしょうか。任意後見契約の委任者(本人)の年齢が80歳以上が約半数であることだけでなく,任意後見契約を締結しても,任意後見監督人を選任する段階において,本人が同意しないことが多いことにも原因があるのでしょうか。

 任意後見人が死亡するというのは,もちろん,不慮の事故,あるいは病によるということもあるでしょうが,高齢によるということもありそうです。そうであれば,任意後見人の年齢も問題になりそうです。

任意後見人の代理権の消滅の対抗要件
 任意後見人の代理権の消滅は,登記をしなければ,善意の第三者に対抗することができないとされています(任意後見法11条)。取引の安全の要請によります。

任意後見制度 その11 [後見制度]

任意後見契約の終了

 任意後見契約は,契約解除,任意後見人の解任,法定後見開始の審判,当事者の死亡等の委任契約の終了事由の発生によって終了します。

契約解除 任意後見法9条
 任意後見契約も,契約ですから,その契約の解除によって終了します。しかし,任意後見法9条は,この契約の解除について,任意後見監督人の選任される前と選任された後に分けて,次のように,規定しています。

第1項  第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任される前においては,本人又は任意後見受任者は,いつでも,公証人の認証を受けた書面によって,任意後見契約を解除することができる。
第2項  第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任された後においては,本人又は任意後見人は,正当な事由がある場合に限り,家庭裁判所の許可を得て,任意後見契約を解除することができる。

 つまり,任意後見監督人の選任前においては,本人又は任意後見受任者は,いつでも任意後見契約を解除することができるけれども,解除するには,公証人の認証を受けた書面によらなければならないということですね。公証人の認証を受けた書面となっていますが,これは,当事者の真意を担保するためです。契約締結時と異なり,公正証書による必要はありません。なお,この場合においても,任意後見契約で正当な事由がある場合に限るという限定が付されることが多いようです。

 任意後見監督人の選任後,つまり,任意後見契約が効力を生じた後においては,本人又は任意後見人は,正当な事由がある場合に限り,家庭裁判所の許可を得て,任意後見契約を解除することができます(同条2項)。任意後見契約が効力を生じた後ですから,本人保護のために,正当な事由の存在家庭裁判所の許可を要求するわけです。

解任 任意後見法8条
 任意後見人に不正な行為,著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときは,家庭裁判所は,任意後見監督人,本人,その親族又は検察官の請求により,任意後見人を解任することができることとされています(任意後見法8条)。

 任意後見監督人が解任の請求をすることができるとされているのは,監督権を実効的にするものとして当然だと思いますが,後見監督人が動かない場合に備えて,本人の親族及び検察官が請求することができるとされていることが注目されます。任意後見人の解任によって任意後見契約は終了することになります。

任意後見契約の終了は,続きます。

任意後見制度 その10 [後見制度]

任意後見監督人

 任意後見制度においては,任意後見監督人の存在というものが極めて重要であることは,任意後見契約の発効が任意後見監督人の選任によって生ずるとされていることから明らかです(任意後見法2条1号)。本人の保護において,任意後見人に誰がなるかがもちろん極めて重要ですが,任意後見監督人にどのような人あるいは法人がつくかも,極めて重要なことだと思います。世間一般では,監査とか監督の職にあるとしても,名目的なものあるいは形式的なものにとどまっているというものがよく見かけられますが,この制度において,このようなことになると,この制度は崩壊ですよね。そこで,家庭裁判所が選任し,任意後見監督人が家庭裁判所に定期的に報告することになっていますし,家庭裁判所は,必要があると認めるときは,任意後見監督人に対し任意後見人の事務に関する報告を求め,任意後見人の事務もしくは本人の財産の状況の調査を命じ,その他任意後見監督人の職務について必要な処分を命ずることができるとされています(任意後見法7条3項)。もっとも,任意後見監督人の監督が厳しすぎても,さて,それで,本人の保護になるのか,本人の意思の尊重の問題としてどうなのかということもありそうです。

資格 欠格事由
このように任意後見監督人は重要な地位を有しますから,任意後見監督人の資格が重要となります・・・そこで・・と書きたいところですが,積極的資格については,法律上の制限はありません。自然人だけでなく,法人もなることができます(任意後見法7条4項,民法843条参照)。複数の選任も可能です。司法書士や弁護士,その他のプロに限定されているわけではありません。しかし,欠格事由の定めがあります。適正かつ実効的な監督の確保のためということですが,よく理解できるところであろうと思います。

まず,任意後見法5条は,任意後見監督人の欠格事由という条文見出しをおいて,「任意後見受任者又は任意後見人の配偶者,直系血族及び兄弟姉妹は,任意後見監督人となることができない。」としています。また,任意後見法7条4項が,後見人の欠格事由に関する民法847条を準用していますから,次の者も,任意後見監督人になることができません。

1 未成年者 2 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人,保佐人又は補助人 3 破産者 4 被後見人に対して訴訟をし,又はした者並びにその配偶者及び直系血族 5 行方の知れない者

職務・権限
任意後見監督人の職務については,任意後見法7条1項が規定しています。

任意後見人の職務は,次のとおりとする。
1 任意後見人の事務を監督すること。
2 任意後見人の事務に関し,家庭裁判所に定期的に報告をすること。
3 急迫の事情がある場合に,任意後見人の代理権の範囲内において,必要な処分をすること。
4 任意後見人又はその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表すること。

任意後見人の権限については,任意後見法7条2項です。

任意後見監督人は,いつでも,任意後見人に対し任意後見人の事務の報告を求め,又は任意後見人の事務若しくは本人の財産を調査することができる。

なお,委任や後見に関する民法の規定が,任意後見法7条4項により任意後見監督人に準用されています。

1 民法644条 受任者の善管注意義務
2 民法654条 委任終了後の応急処分義務
3 民法655条 委任終了の対抗要件
4 民法843条4項 選任の際に考慮すべき事情
5 民法844条 後見人の辞任
6 民法846条 後見人の解任
7 民法847条 後見人の欠格事由
8 民法859条の2 成年後見人が数人あるときの権限行使の方法
9 民法861条2項 費用の支弁
10 民法862条 後見人の報酬


SH3H0016.JPG

散歩途中の道端で

任意後見制度 その9 [後見制度]

任意後見人の義務 

善管注意義務
任意後見契約は,委任契約の一類型ですから,任意後見人は,後見事務を行うに当たって,善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)負います(民法644条)。

身上配慮義務本人の意思尊重義
しかし,さらに,任意後見法6条は,「任意後見人は,第2条第1号に規定する委託に係る事務(以下「任意後見人の事務」という。)を行うに当たっては,本人の意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」としています。ここに,身上配慮義務と本人の意思尊重義務が規定されています。この点については,成年後見人(民法858条),保佐人(民法876条の5第1項)補助人(民法876条の10,876条の5第1項)と同様の規定となっています。身上配慮義務の法的性質については争いがありますが,今回は,割愛します。

 身上配慮義務,つまりは本人の保護の要請の問題と本人の意思の尊重とは,難しい問題がありますが,ただ,法定後見の場合と異なり,任意後見の場合には,任意後見契約締結時においては,本人に充分な判断能力があるわけですから,任意後見受任者としては,充分に本人の意思を聞き出し,確認しておく(書面にする)ことにより,できるだけ,本人の意思にそって,後見事務を遂行していくことができるのではないかと思えます。任意後見制度のメリットですから,この点を生かすということになるのでしょうね。しかし,とは言っても,実際は難しいことがいろいろありそうです。

次は,任意後見監督人,そして,任意後見契約の終了で,これで,任意後見契約については,終了となります。

ブラックベリー.JPG

庭の食べれるブラックベリー これの正面にブルーベリーがあるのですが,今年は出来がよくない。

任意後見制度 その8 [後見制度]

任意後見人の後見事務の内容

 任意後見人の後見事務の内容は,任意後見契約の委任者(本人)の具体的必要性に応じて,任意後見契約で定められ(代理権目録),任意後見人受任者又は任意後見人の代理権の範囲として登記されています(後見登記等に関する法律…以下5条4号)。

 「代理権」の範囲ですから,法律行為の代理です。法律行為の対立概念として事実行為がありますが,事実行為は含まれません。例えば,介護等の事実行為は,任意後見人の後見事務ではありません。もっとも,法律行為の遂行に必要不可欠な付随的事実行為は含まれると解されています(民事月報Vol.54.12 P34参照)。例えば,施設入所契約を締結する前の段階として,当該施設を本人と一緒に見学に行くことは,後見事務に含まれると解されています。

委任者から授権される法律行為は,2つに分類することができます。一つは,財産管理に関する法律行為,もう一つは,身上監護(生活又は療養看護)に関する法律行為です。財産管理に関する法律行為としては,例えば,預貯金の管理・払戻し,不動産その他の重要な財産の処分,遺産分割,賃貸借契約の締結・解除等があります。身上監護に関する法律行為としては,介護契約,施設入所契約,医療契約の締結等があります。

 任意後見人が財産管理に関する法律行為として最も頻繁にすることは,預貯金の管理・払戻しであることは,容易に推測することができます。介護費用や入院・手術等の医療費が多額であるときは,不動産の処分ということもありますね。施設に継続的に入所ということになると,これまで住んできた家屋を賃貸するとか,賃借してきた家屋の賃貸借契約を解除するとかいうことも生じます。法定後見等の場合と異なり(民法859条の3,876条の5第2項,876条の10第1項),居住用不動産の処分についても,家庭裁判所の許可は不要です。なお,不動産の処分について登記の申請も代理権付与の対象となると解されていて,代理権があるときは,実務上,任意後見登記の登記事項証明書が任意後見人の代理権限証明書となるとされています(H15.2.27民事二課長通知)。

 任意後見人がする身上監護に関する法律行為について,LS東京 山崎政俊さんは,「福祉サービス利用契約(介護サービス,配食サービス,施設入所契約等)の締結・変更・解除及び費用の支払いは,任意後見人が行う身上監護に関する事務の中心的なものである。」とされ,福祉サービスの利用に関しては,いわゆる ① 見守り活動(本人を定期的に訪問することによって,本人の生活及び身体状況を確認すること。たとえば,入所施設内での処遇の監視等),および, ② アドボカシー活動(本人の身上面に関する利益の主張をしたり,あるいは代弁したりすること。たとえば,入所施設内での処遇の改善を施設に申し入れる等)が重要になるとされています(講義レジュメP5)。


任意後見制度 その7 [後見制度]

任意後見人の員数(任意後見人が複数の場合の単独代理と共同代理)

 任意後見人は1人に限られるという規制はありません。報酬を支払うという場合であれば,金銭的に余裕がある場合のことになるでしょうが,財産が各所にたくさんある等,各種の事務が多数である場合もあるでしょうから,複数の任意後見人が必要になることもあると考えられます。また,共同代理にして,代理権の濫用を防止するということもあるでしょうね。

 任意後見人が複数であるという場合には,それぞれの任意後見人が単独で代理権を行使するという単独代理の場合もあるし,共同代理の場合もあります。共同代理の定めは,登記事項とされていますから(後見登記等に関する法律5条5号),この登記(あるいは任意後見人の示す後見登記事項証明書)によって,単独代理か共同代理かが明らかになります。

 任意後見人が複数である場合に,単独代理であれば,任意後見契約について公正証書を作成するときには,公正証書も別々に作成されることになります。この場合には,任意後見契約も,各任意後見受任者ごとに独立の契約であると考えられるからです。単独代理の場合には,家庭裁判所は,任意後見受任者のうちの1人について不適任の事由があっても,他の任意後見受任者に不適任の事由がなければ,任意後見監督人の選任の審判をして,任意後見契約を発効させることができます。

 これに対して,共同代理ということになると,任意後見契約は,1個の不可分な契約ということになりますから,公正証書も1通ということになります。したがって,また,任意後見受任者のうちの1人について不適任の事由があれば,他の任意後見受任者について不適任の事由がなくても,家庭裁判所は,任意後見監督人の選任の審判をしないということになります。

今朝咲きました。
ハイビスカス.JPG

任意後見制度 その6 [後見制度]

任意後見人の就任,資格

 本人,配偶者,4親等内の親族又は任意後見受任者の請求によって家庭裁判所によって,任意後見監督人の選任の審判が行われると,任意後見契約の効力が発生します(任意後見法2条柱書)。その時点で,任意後見受任者が任意後見人に就任することになり,本人から委託された後見事務(生活,療養看護及び財産管理に関する事務)について,代理権を行使することができるようになります。

 任意後見人の資格については,任意後見法は制限を設けていません。そこで,親族・知人が最も多いようですが,そのほか,司法書士,弁護士,社会福祉士というところでしょうか。なお,すでに述べたように,任意後見法4条1項3号ハは,家庭裁判所が任意後見監督人を選任しない場合として,任意後見人が「不正な行為,著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者」を挙げていますから,特に,親族・知人が任意後見受任者とされているときに,家庭裁判所は,これにより,任意後見契約を発効させないということもありそうですが,実際はどうでしょうか。このあたりの資料がほしいところです。

 法人も任意後見人となることができます。任意後見契約は,任意代理契約の一類型ですから,当然に,自然人だけでなく,法人も任意後見受任者となり,任意後見人になることができます。だから,司法書士法人も,任意後見人になることができることになります。リーガルサポートは,任意後見人になっているのでしょうか(任意後見監督人になっているところがあるということは聞きました)。なお,営利法人でも差し支えありません。信託銀行等ですね(実例はあるのでしょうか。パンフレットをつぶさに見たことがないのですが・・・)。


任意後見制度 その5 [後見制度]

任意後見契約の効力の発生 任意後見監督人の選任

 任意後見契約は,家庭裁判所によって任意後見監督人が選任された時からその効力を生じます(任意後見法2条1号)。

 では,本人の精神障害の程度がどのようになって,誰の請求によって,任意後見監督人が選任されるのでしょうか。任意後見法4条柱書本文です。「任意後見契約が登記されている場合において,精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは,家庭裁判所は,本人,配偶者,4親等内の親族又は任意後見受任者の請求により,任意後見監督人を選任する。」

 精神障害の程度としては,事理を弁識する能力が不十分とありますから,これは,法定後見制度における補助の場合と同じ程度であると言えます(民法15条参照)。家庭裁判所に対して選任の請求をすることができるのは,本人,配偶者,4親等内の親族又は任意後見受任者です。通常は,任意後見受任者となるのではないでしょうか。親族がいれば親族から連絡が入って,あるいは,任意後見契約と同時に見守り契約をして,その履行により任意後見受任者である司法書士等自身が知り,司法書士等が家庭裁判所に請求するというものです。補助の程度ですから,任意後見法は,本人の意思の確認が必要であると考え,本人以外の者の請求により任意後見監督人を選任するには,あらかじめ本人の同意がなければならないとされています。実務の場面では,それゆえに,任意後見受任者から請求するのが難しい場面があると言われます。本人がそのような状況になったことを認めたくない等の理由で,医師の診察を受け容れないということがあるとのことです。本人がその意思を表示することができないときは,同意は不要とされていますから(同ただし書),その場合には問題はないのですが,補助や保佐の程度のときが問題ということになるのでしょうね。

 なお,任意後見法4条ただし書は,家庭裁判所が任意後見監督人を選任することができない場合を各号で挙げています。この場合には,任意後見契約を発効させるべきではないというのです。次の各場合です。

一 本人が未成年者であるとき。
二 本人が成年後見人,被保佐人又は被補助人である場合において,当該本人に係る後見,保佐又は補助を  継続することが本人の利益のために特に必要であると認めるとき。
三 任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
  イ 未成年者,家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人又は補助人,破産者,行方の知れない者
  ロ 本人に対して訴訟をし,又はした者及びその配偶者並びに直系血族
  ハ 不正な行為,著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

 一は,本人が未成年者である場合に任意後見契約を発効させると,親権者又は未成年後見人との権限抵触の問題を生ずるからです。二は,任意後見制度によっては本人の利益を守ることができないときは,法定後見等を継続させる必要があるからです。「本人のために特に必要であると認めるとき」とありますが,任意後見契約を締結した本人の意思をできるだけ尊重するという趣旨です。本人保護と本人の意思の尊重の衝突の場面です。三は,このような者が任意後見人に就任することは不適当だからです。







任意後見制度 その4 [後見制度]

任意後見契約の現状

 では,任意後見契約の現状はどうでしょうか。これまでどれだけ任意後見契約が締結され,登記されてきたかということです。私が一番知りたいところでした。司法統計を調べれば出てくると思うのですが,横着しまして,先日のリーガルサポートの研修会での梶田美穂さん(リーガルサポート大阪支部 副支部長)が講義で紹介されましたので,そこから引いてきたいと思います(とてもいい講義でした。情熱が伝わってくる講義でした。ありがとうございました)。委任者の年齢やどのような人が受任者になっているかということも,知りたいですね。この講義は,昨年(平成21年)の8月29日に行われたものです。

 平成12年4月から平成20年12月までの任意後見契約締結登記の件数累計が,3万2,983件だそうです。どうでしょう。多いと感じますか,それとも少ないと感じますか。結構多いではないかと思った人もいるかもしれませんが,私は,少ないなと思う1人です。しかし,平成20年中は,7095件ということですから,増えてはきているのでしょうね。

 次に,任意後見監督人の選任の申立ては,というと,全体の6%から7%かとされています。2,000人かそれより少し多いというところですね。それにしても,少ないですね。委任者の年齢からみて任意後見契約が効力を生ずる前に本人が亡くなってしまったとか,比較的に若ければ(若くなくてもでしょうか)本人が同意をしない等の理由によるのでしょうか。

 委任者の年齢は,80歳以上が約半数を占め,受任者は,近親者・知人が70%で,司法書士が15%だそうです。

 さて,任意後見人の報酬ですが,近親者・知人等が70%をしめるということですから,この場合は,無報酬が多いと考えられます。無報酬は,50%だそうです。残りの50%は,月3万円未満が最も多く,次いで,3万円から5万円,10万円以上が5%だそうです。報酬については,1月の定額の基本的な報酬のほかに個別的な報酬(特別報酬)も加わり,金銭的ゆとりを有する者だけが利用できるという声もあるようです。


任意後見制度 その3 [後見制度]

任意後見契約の締結と登記

 任意後見制度を利用するためには,任意後見契約を締結しなければなりません。この当事者は,本人と任意後見受任者です。任意後見法において,本人とは,「委任後見契約の委任者をいう。」と任意後見法2条2号が定義しています。任意後見受任者とは,任意後見監督人が選任される前における任意後見契約の受任者をいいます(同3号)。任意後見受任者は,任意後見契約が効力を生ずると,任意後見人となります(同4号)。

 本人が制限行為能力者である場合にその法定代理人が任意後見契約を締結することもできます。これは,知的障害者や精神障害者等のいわゆる「親なき後」(親の老後,死後)に備えるために利用するという場合です。

任意後見契約は,法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならないとされています(任意後見法3条)。これは,公証人の関与によって,任意後見契約の適法性・有効性を担保する等のためです。というわけで,必ず,公証人役場に行かなければならないといいうことになります。ということは,公正証書作成の手数料が必要ということになります。公正証書作成の基本手数料は,1万1,000円です(公証人手数料令別表)。

 任意後見契約が締結された場合には,その公示のため,登記をしなければならないことになっていますが,公正証書を作成した公証人が登記所に任意後見契約の登記を嘱託しなければならないとされています(公証人法57条ノ3第1項)。

 したがって,登記手数料(平成23年3月31日までは登記印紙,4月1日からは収入印紙によって納付することとされています)のほか,登記の嘱託についての手数料が必要となります。前者は,4,000円(登記手数料令16条1項)です。後者は,1,400円です(公証人手数料令39条の2)。そのほか切手代等のブラスαが必要となります。

 後見登記等(成年後見,保佐及び補助に関する登記並びに任意後見契約の登記)に関する事務は,法務大臣の指定する法務局若しくは地方法務局若しくはこれらの支局又はこれらの出張所が,登記所としてつかさどるとされていますが(後見登記等に関する法律2条1項),平成12年2月24日に告示第83号で,東京法務局が指定されて以来,東京法務局だけが,その指定法務局とされています。

 今日の条文 任意後見契約の登記の登記事項を定めた後見登記等に関する法律第5条です。
任意後見契約の登記は,嘱託又は申請により,後見登記等ファイルに,次に掲げる事項を記録することによって行う。
一 任意後見契約に係る公正証書を作成した公証人の氏名及び所属並びにその証書の番号及び作成の年  月日
ニ 任意後見契約の委任者(以下「任意後見契約の本人」という。)の氏名,出生の年月日,住所及び本籍(外国人にあっては国籍)
三 任意後見受任者又は任意後見人の氏名及び住所(法人にあっては,名称又は商号及び主たる事務所又は本店)
四 任意後見受任者又は任意後見人の代理権の範囲
五 数人の任意後見人が共同して代理権を行使すべきことを定めたときは,その定め
六 任意後見監督人が選任されたときは,その氏名及び住所(法人にあっては,名称又は商号及び主たる事務所又は本店)並びにその選任の審判の確定の年月日
七 数人の任意後見監督人が,共同して又は事務を分掌して,その権限を行使すべきことが定められたときは,その定め
八 任意後見契約が終了したときは,その事由及び年月日
九 保全処分に関する事項のうち政令で定めるもの
十 登記番号

 3号に注意しておいてください。任意後見人の住所まで登記事項とされている点です。法人の場合には,だれが任意後見人の職務をしているか登記からはわかりませんが,自然人の場合には,登記によって,その住所まで容易に判明することことになります。

任意後見制度 その2 [後見制度]

 精神上の障害によって事理を弁識する能力(判断能力)が劣るようになった人をサポートする制度としての後見制度には,法定後見制度と任意後見制度があります。

 法定後見は,民法が定めている制度であり,すでに精神障害によって事理を弁識する能力が劣るようになった人について,一定の者の請求により家庭裁判所が後見等の開始決定をすることにより行われ,後見人等(成年後見人,保佐人,補助人)も家庭裁判所が選任します。成年後見,保佐,補助と3類型があります。

 これに対して,任意後見は,本人の事理弁識能力が正常であるうちに,将来事理弁識能力が不十分になった場合に備えて,あらかじめ,任意後見受任者(例えば,プロであれば,司法書士や弁護士等)と,自分の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務の委託,その委託に係る事務について代理権を付与する旨の契約を締結して,いざ,事理弁識能力が不十分になったというときに,一定の者の請求により,家庭裁判所が任意後見監督人を選任することにより,効力が発生し,開始されるというものです。必ず本人の意思に基づくものであることから,任意後見制度と呼ばれています(もっとも親権者等の法定代理人が任意後見契約を締結することも可能です)。

 (なお,任意後見法が典型的に予定した類型は,上記のように,現時点において判断能力に問題はない人が,将来に備えて任意後見契約を締結するというものですが,すでに判断能力が不十分である人についても,契約締結に必要な意思能力があるのであれば,任意後見制度を利用することができないわけではありません。しかし,このような場合には,法定後見制度を利用できるものであれば,その方がよいのではないかと私は思います。)

 このような契約は,民法による一般の任意代理契約(財産管理等委任契約)でも可能です。委任者の精神障害のレベルが一定程度になったときに,一定範囲の代理権の授与の効果が発生するという内容の契約を締結すればよいからです。しかし,このような任意代理契約は,本人が事理弁識能力が不十分となった段階において契約の効力が発生するものですから,本人のコントロールが及ばなくなってからの受任者に対する公的な監督の制度がないので,本人にとって大きな危険があります(受任者の濫用の危険)。利用しにくいということにもなります。

そこで,立法担当者によれば,本人が自ら締結した任意代理の委任契約に対して本人保護のための必要最小限の公的な関与(家庭裁判所の選任する任意後見監督人の監督)を法制化することにより,自己決定の尊重の理念に即して,本人の意思が反映されたそれぞれの契約の趣旨に沿った本人保護の制度的な枠組を構築しようとして制定されたのが任意後見法であるという説明となります(民事法情報No.160 P21~P22参照)。

 さて,例によって,条文を見ておきます。今日は,任意後見法(任意後見契約に関する法律)第1条と第2条1号です。第1条は,この法律の趣旨で,第2条1号は,任意後見契約の定義です。

(趣旨)
第1条 この法律は,任意後見契約の方式,効力等に関し特別の定めをするとともに,任意後見人に対する監督に関し必要な事項を定めるものとする。

(定義)
第2条 1号 任意後見契約 委任者が受任者に対し,精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し,その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって,第4条1項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めがあるものをいう。


第2条1号を読めば,任意後見監督人の存在がとても重要であるということが理解されます。専門職後見人である司法書士の不祥事が報道される中,後見監督人の存在の重要性が意識されています。

なお,一般の人向けのパンフレット等をみると,事理弁識能力の用語は使われることなく,判断能力と言い換えられ,その精神上の障害という用語を使用しないものが多いようですが,条文から出発すべきと考える私としては,用語は,難しくても,基本的には,法律上の用語でということで,以下,書き続けます。


SH3H0001.JPG


任意後見制度 その1 [後見制度]

 私のこのブログの読者は,司法書士試験受験生の方が多いと思うのですが,最近,本職の方もかなりの数になるのではないかと,書いた記事に対するアクセス数と頂くメールなどから感じています。

 今日から,何回か書こうとしていることは,司法書士試験の受験勉強中で,司法書士試験に合格して司法書士になろうとしている人達に向けてのものです。本職の方には,特にリーガルサポートの会員の皆さんには,釈迦に説法のようなことを書くことになるのではないかと思われるのですが,ご勘弁を。できたら,こういうことも書けというメールでもいただければうれしいです。

 任意後見法(正式には,「任意後見契約に関する法律」(平成11年法律第150号)です)が成立・施行されてから,10年が経ちましたが,司法書士試験に出題されたことはまだありません。出題範囲にないとは思いませんが,出題されてきませんでしたね。法定後見制度については,多くはないものの出題されていますが(S56年19問,S59年20問,S60年17問,平成12年22問,平成14年20問,H15年4問等),任意後見制度はまだですね。合格すれば司法書士となって活躍するのだから,そして,先輩の司法書士が,この制度の発展のために頑張っているのだから(法定後見制度もですが),この制度発展の前提として,出題されることが望ましいと思います(今年どうでしょうね)。出題されれば,よく勉強すると思うのです。出題されないものだから,ほとんどの人は勉強していないのではないでしょうか。任意後見契約??何,それっていう受験生があちこちにいそうな気がするのですがね。

 試験科目から供託法をはずして,後見制度に関する出題(もちろん,任意後見だけでなく法定後見も含めて後見制度に関する出題ということです)とかいって独立の科目とするというのはどうでしょう。・・・言い過ぎでしょうかね。

・・・と今は,こう言っていますが,実は,素直に白状すれば,恥ずかしながら,私は,司法書士がこの制度にこのように深くかかわっていくとは思っていなかったのです。今を去ること10年と何カ月か前,任意後見法が成立したことから,私は,任意後見制度について,司法書士試験受験用参考書の改訂用の解説を書き始めましたが,その時点において,司法書士が任意後見受任者及び任意後見人となって,この制度に深くそして積極的に関わっていくとは思っていなかったのです。弁護士だろうなと思っていました。リーガルサポートは,平成11年12月設立だというのに・・・ですよね。恥ずかしながら。

 現行の任意後見制度については,いろいろな問題点も出ているようですが,研修会の講義を思い出しながら,書いていければいいなと思います,しかし,まずは,任意後見法が作り上げた仕組みをしっかりと理解しなければなりません。

後見制度 ブログトップ