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8月27日のテストの正解 [商法総則・商行為法]

 8月27日のテストの解答です。

問題 商人間の売買に関する次のアからオまでの記述のうち,誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア 売買の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達しない場合において,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは,相手方は,相当の期間を定めて催告をしなくても,直ちにその契約の解除をすることができる。
イ 買主は,その売買の目的物を受領したときは,遅滞なく,その物を検査しなければならない。
ウ 売買の目的物に瑕疵又は数量の不足があるときは,その事実を知ってから1年以内であれば,契約の解除又は代金減額もしくは損害賠償の請求をすることができる。
エ 隔地売買において,買主が,売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることによって契約を解除したとき,買主は,原則として,売主の費用をもって売買の目的物を保管し,又は供託をしなければならない。
オ 隔地売買において売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合には,買主は,原則として,売主の費用をもって売買の目的物を保管し,又は供託をしなければならない。
1 ア ウ 2 ア オ 3 イ ウ 4 イ エ 5 エ オ

誤っているものはアとウで,1が正解です。

ア 時期の経過とともに当然に解除の結果を生ずることとされています(商法525条)。
http://bit.ly/bSo4BX
イ 商法526条1項
 http://bit.ly/cFf4mT
ウ 買主は,検査によって売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは,直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければならず,これを怠ると,その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額もしくは損害賠償の請求をすることができないとされています(商法526条2項)。3項も注意です。
http://bit.ly/cFf4mT
エ 商法527条
http://bit.ly/bdixbh
オ 商法528条
http://bit.ly/bdixbh

商事売買 テスト [商法総則・商行為法]

 昨年・今年と商法総則・商行為法から出題されました。来年どうかはわかりませんが,もし,この傾向が続くのであれば,来年は,商法総則の可能性が高いとは思うのですが,商行為法ということになると,商行為総則というところでしょうが,今年と同じ路線ということになると,商事売買あるいは場屋営業主の責任のあたりかもしれません。

 それで,商事売買について,数回にわたって書いてきましたが,読むばかりでは頭に残らないかもしれないので,問題を作成してみました。解説はありませんが(前のブログをご覧ください,ただし,答を出してからです),正解は,twitterの方ででも。

 問題 商人間の売買に関する次のアからオまでの記述のうち,誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア 売買の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達しない場合において,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは,相手方は,相当の期間を定めて催告をしなくても,直ちにその契約の解除をすることができる。
イ 買主は,その売買の目的物を受領したときは,遅滞なく,その物を検査しなければならない。
ウ 売買の目的物に瑕疵又は数量の不足があるときは,その事実を知ってから1年以内であれば,契約の解除又は代金減額もしくは損害賠償の請求をすることができる。
エ 隔地売買において,買主が,売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることによって契約を解除したとき,買主は,原則として,売主の費用をもって売買の目的物を保管し,又は供託をしなければならない。
オ 隔地売買において売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合には,買主は,原則として,売主の費用をもって売買の目的物を保管し,又は供託をしなければならない。

1 ア ウ 2 ア オ 3 イ ウ 4 イ エ 5 エ オ

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買主の目的物の保管・供託義務 [商法総則・商行為法]

 買主の目的物の保管・供託義務

 今回で商事売買は,一応,終了です。どうして,商法総則・商行為法について書いているかというと,昨年・今年と商法総則・商行為法と出題が 続いたことから,来年度も出題があるかもしれない,まるで勉強していない人も多いだろうから,今のうちに,一度だけでも目にしていれば,しばらくして,やはり,商法総則・商行為法を勉強しておいた方がいいなと思った人にとって,少しは楽だろうとおもったことにあります。

 今,少し,時間をとって,このブログでも読んでおけば,気がついたことをメモでもしておけば,ひょっとしたら,役立つかもしれないと思い,書いています。ありときりぎりすのありの応援です。

 と同時に,これは,商法の択一問題集の商行為法の部の準備でもあります。書いていくことによって,忘れていたことを思い出し,もう一度記憶として定着させるため私自身が確認をしていっています。

 さて,商事売買の最終回,買主の目的物の保管・供託義務です。
条文からです。

 (買主による目的物の保管及び供託)
 商法527条  前条第1項に規定する場合においては、買主は、契約の解除をしたときであっても、売主の費用をもって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならない。ただし、その物について滅失又は損傷のおそれがあるときは、裁判所の許可を得てその物を競売に付し、かつ、その代価を保管し、又は供託しなければならない。
2  前項ただし書の許可に係る事件は、同項の売買の目的物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
3  第1項の規定により買主が売買の目的物を競売に付したときは、遅滞なく、売主に対してその旨の通知を発しなければならない。
4  前3項の規定は、売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内にある場合には、適用しない。

 商法528条  前条の規定は、売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合における当該売主から買主に引き渡した物品及び売主から買主に引き渡した物品の数量が注文した数量を超過した場合における当該超過した部分の数量の物品について準用する。

 (解除の効果)
 民法545条  当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2  前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3  解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

 民法の規定によれば,売買の目的物の瑕疵又は数量不足によって売買契約が解除された場合には,買主に原状回復義務を負い,目的物の返還義務があるだけで(民法545条),保管したり供託したりする義務は負わされていません。
 しかし,これを商人間の隔地売買に適用すると,売主にとってみれば,その目的物を放置される危険があるし,また,目的物の所在地で売却した方が有利なことが多いからです(返還となると返還費用を負担するだけでなく,このような売却の機会を失うことになります)。

 そこで,商法は,民法の原則を修正して,商人間の隔地売買において,買主が検査通知義務を履行して、目的物の瑕疵又は数量不足を理由に契約の解除をしたときは,買主は,売主の費用をもって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならないとし,ただし、その物について滅失又は損傷のおそれがあるときは、裁判所の許可を得てその物を競売に付し、かつ、その代価を保管し、又は供託しなければならないとしたわけです(商法527条1項,4項)。なお,買主が売買の目的物を競売に付したときは,遅滞なく,売主に対してその旨の通知を発しなければなりません(同条3項)。
また,売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合における当該売主から買主に引き渡した物品及び売主から買主に引き渡した物品の数量が注文した数量を超過した場合にも,当該超過した部分の数量の物品についても,同様に,保管又は供託する義務を負うものとされています(商法528条)。

 これまで,商人間の隔地売買という限定をして書いてきましたが,どこからそんなことが出てくるのかと言われそうです。商法527条4項です。
 商法527条4項は,「前3項の規定は、売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内にある場合には、適用しない。」としています。つまり,逆にいえば,「売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内にないこと」が保管義務・供託義務の要件であるということになります。これは,売主の営業所(営業所がない場合にあっては,その住所)が目的物の所在地にない場合には,売主が直ちに適当な処置をとることができないことを理由に保管又は供託義務を課したということを意味します。したがって,両当事者の営業所が同一の市町村の区域内にあっても,売主が買主の指定した他地に目的物を送付した場合にも,買主の保管又は供託義務が認められると解されています(通説)。結局,隔地売買が要件となるというわけです。

目的物の検査義務と通知義務 その3 [商法総則・商行為法]

 買主の目的物検査義務及び通知義務について,3回に及んでしまいました。思わず,文が長くなりました。しかも,前回の標題が間違っていました。さきほど修正しました。気付かなかったのは本人だけなのかも・・・。

今日は,買主の検査・通知義務の要件と商法526条の適用範囲についてです。

 買主の検査・通知義務の要件

(1) 商人間の売買であること
(2) 買主が売買の目的物を受領したこと
(3) 売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があること
(4) 売主に悪意がないこと

(1) 商人間の売買であること
   商人間の売買であって,両当事者にとって商行為であることを要します(通説)。
(2) 買主が売買の目的物を受領したこと
   目的物を受領しなければ,検査することができないからです。現実に目的物を受領しなければ,検査義務   は発生しません。
(3) 売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があること
   瑕疵は,物の瑕疵(民法570条)に限り,権利の瑕疵は含みません。権利の瑕疵の発見には,通常,長時   間を要するからと言われます。目的物の瑕疵とは,その性質,形状,効用,価値等が,約定された通常の   標準に満たないことを言います。見本品売買の場合には,現物が見本より劣っていれば,瑕疵があること   になります。
(4) 売主に悪意がないこと
   悪意とは,目的物の引渡しのときに,目的物の瑕疵又は数量不足を知っていることを言います。売主が悪   意の場合には,売主を保護する必要はありませんから,商法526条1項及び2項は適用されないことになり   ます。

 商法526条の適用範囲
 商法526条は,特定物売買だけでなく,不特定物売買についても適用があります(最判S35.12.2等参照)。また,買主が売主に対して担保責任を追及する場合だけではなく,債務不履行責任を追及する場合にも適用があります(最判S47.1.25参照)。

目的物の検査義務と通知義務 その2 [商法総則・商行為法]

 目的物の検査義務と通知義務

 民法の規定によれば,売主が買主に引き渡した物に瑕疵があったり,その数量が不足する場合には,買主は,売主の担保責任を追及するには,その事実を知った時から1年以内にしなければならないとされています(民法566条3項)。また,買主が売主に対して不完全履行による債務不履行責任を追及するには,10年の時効期間の猶予があることになっています(民法167条1項)。

 しかし,以上は,迅速性を要求する商取引には適当ではありません。売主と買主との法律関係は,早期に確定させる必要があります。そこで,商法は,商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならないとし(商法526条1項),買主は、この検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければならず、これを怠ると,その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができないとされています(同条2項前段)。ただし, 売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合を除きます(同条3項,これは,当然ですよね)。
 
 上記の通知は,直ちに発することを原則としますが,売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合には(隠れた瑕疵),猶予期間があり,買主が6カ月以内にその瑕疵を発見したときに,直ちに通知すればよいとされています(同条2項後段)。

 この商法526条2項後段は,そもそも解りにくい条文ですが,目的物に隠れた瑕疵があって,買主が6カ月以内に瑕疵を発見することができなかったときはどうなるのかが問題です。通説及び判例は,買主は,売主に対して責任追及をすることができなくなると解する立場にあります(最判S47.1.25参照)。

 しかし,商法526条2項後段は,「・・・発見したときも,同様とする。」ですから,前段と同様,つまり・・・買主は・・・請求することができない。とすれば,「発見しなかったときは,前段と同様ではない」・・・つまり,請求することができるとなるようにも読めます。しかし,そのように解すると,この場合に,商法526条の趣旨に反してしまいます。

 また,同じ箇所(商法526条2項後段)を読んで,気づくもうひとつのことは,「瑕疵」とあるけれど,数量不足がないということです。同条2項前段は,瑕疵と数量不足であるのに,数量不足がない。どうしてか。どう解釈したらよいのか。

 通説は,数量不足についても,適用があることと解しています。規定がないことについては,「受取時に発見できない数量不足などありえないと,立法当初は考えられたのかもしれない。」(有斐閣アルマ 商法総則・商行為法第2版P222)とあります。そして,同書は,続けて,「今日のような取引状況にあっては,もはや現実的な想定とはいえないであろう。」としています。

 上記2点については,平成17年の商法改正というチャンスがあったのですから,そのときに,改正を加えて解決すればよかったのにと思います。立法担当者は,それどころではなかったのかもしれませんが・・・。

つづく。

買主の検査義務と通知義務 商法526条 その1 [商法総則・商行為法]

買主の検査義務と通知義務 商法526条 その1

 商法総則や商行為法は,民法の特別法ですから,商法総則・商行為法の勉強は,民法の勉強ともなります。どこが違うのかを意識すれば,記憶定着の程度が格段に違います。

 さて,そこで,今回のテーマは,買主の検査義務と通知義務なのですが,これに関係する民法の規定を先に掲げておくことにします。どのような条文が登場するか?

 民法の復習です。読んで確認しておきましょう。今日は,条文だけにとどめます。

 (権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)
民法563条  売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
2  前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。
3  代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。

民法564条  前条の規定による権利は、買主が善意であったときは事実を知った時から、悪意であったときは契約の時から、それぞれ1年以内に行使しなければならない。

(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
民法565条  前2条の規定は、数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。

(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
民法566条  売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2  前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3  前2項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。

(売主の瑕疵担保責任)
民法570条  売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
(債権等の消滅時効)

民法167条
債権は,10年間行使しないときは,消滅する。
2 略
商法526条は,これらに関する特則となります。 


(買主による目的物の検査及び通知)
商法526条  商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2  前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が6箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3  前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。

売主の供託権・自助売却権 商法524条 [商法総則・商行為法]

 売主の供託権・自助売却権 商法524条

 民法494条 債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。

 民法497条 弁済の目的物が供託に適しないとき、又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるときは、弁済者は、裁判所の許可を得て、これを競売に付し、その代金を供託することができる。その物の保存について過分の費用を要するときも、同様とする。
民法495条3項
前条の規定により供託をした者は,遅滞なく,債権者に供託の通知をしなければならない。

 商法524条  商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、売主は、その物を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができる。この場合において、売主がその物を供託し、又は競売に付したときは、遅滞なく、買主に対してその旨の通知を発しなければならない。
2  損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、前項の催告をしないで競売に付することができる。
3  前2項の規定により売買の目的物を競売に付したときは、売主は、その代価を供託しなければならない。ただし、その代価の全部又は一部を代金に充当することを妨げない。

 売主の供託権
商法524条1項前段は,商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、売主は、その物を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができるとしていますが,この商人間の売買に関する売主の供託権については,民法の弁済供託に大きな修正は加えられてはいません。民法は,債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができるとしているからです。されているからです(民法494条)。

商事売買における売主の供託に関する負担の軽減としては,供託の通知について発信主義がとられている点があります(民法495条3項と商法524条後段)。

 売主の自助売却権
 ここでいう売主の自助売却権とは,商人間の売買において,買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、売主は、相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができます(商法524条1項前段)。もっとも,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、催告をしないで競売に付することができます(同条2項)。 これを売主の自助売却権といいます。
  以上により,売買の目的物を競売に付したときは,売主は,その代価を供託しなければならないとされますが(同条3項本文),しかし,その代価の全部又は一部を代金に充当することができるとされています(同ただし書)。

 民法においても,弁済者の自助売却権が認められています。しかし,民法では,自助売却権は,弁済の目的物が供託に適しないとき、又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるとき、その物の保存について過分の費用を要するときに限定されています。それだけでなく。裁判所の許可を要することとされています。加えて,競売による売却代金は,必ず供託しなければならず,債務に充当することはできないことになっています。

 このような民法の規定は,売主の立場からして,迅速性に欠け,目的物の価格の変動が激しいことが想定される商事売買では,売主の利益が十分に保護されません。そこで,商人間の売買においては(なお,双方の当事者にとって商行為であることを要するとするのが通説です),買主の受領拒絶又は受領不能があれば,売主は,目的物を供託することができるだけでなく,裁判所の許可を要することなく,常に,直ちに競売することができ,さらに,その競売による売却代金(代価)の全部又は一部を売買代金債務に充当することができることとしたものです。


定期売買 商法525条 [商法総則・商行為法]

 定期売買 商法525条

 商法525条(定期売買の履行遅滞による解除)は,民法542条(定期行為の履行遅滞による解除権)の特則(特例)です。条文を並べます。比較です。


 民法542条  契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。

 商法525条  商人間の売買において、売買の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、直ちにその履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみなす。

 定期売買とは,契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達しないものをいいます。性質上の定期売買の例として,書中見舞いとして得意先に配布する目的でした大量のうちわの売買(大判T9.11.15)輸出用のクリスマス用品の売買(大判S17.4.4),暦の売買(大阪区判T7.5.15)等があります。

 民法の一般原則によれば,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができるとされます(民法542条)。

 これに対して,商事売買においては,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、直ちにその履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみなすとされ(商法525条),解除の意思表示をすることなく,時期の経過とともに,当然に解除の結果を生ずることになります。

 商法525条は,商事売買取引の迅速な処理を図るとともに売主の保護を図ることを目的としています。時期の経過とともに当然に解除されたものとみなされるのですから,迅速な処理ということは,明白ですが,では,どこが売主の保護なのでしょうか?

 売主の目から見ます。民法の規定によれば,売主が履行をしないで,その時期を経過したときは,買主は,催告をすることなく,直ちにその契約の解除をすることができる・・・解除の効果を生ずるためには,売主の解除の意思表示が必要です。ということは,買主は,解除をせずに請求するか,解除をするか選択できることになります。そうすると,買主は,目的物の価格の騰落によって,投機を行うことが可能となります。買主は,売主の危険において目的物の価格が急騰すれば,履行の請求をし,急落すれば,契約を解除するということができます。このような不安定な地位に立たされないようにするためには,相当の期間を定めてその期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をしなければなりません(民法547条)。商法525条は,売主がそのような立場に立たされることから救うことになります。

 ところで,平成17年の商法525条の改正は,単なる口語化にとどまるものではなく,実質的な改正といってもよい改正が行われました。

 旧商法525条は,次のようになっていました。
売買ノ性質又ハ当事者ノ意思表示ニ依リ一定ノ日時又ハ一定ノ期間内ニ履行ヲ為スニ非サレハ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ於テ当事者ノ一方カ履行ヲ為サスシテ其時期を経過シタルトキハ相手方ハ直チニ其履行ヲ請求スルニ非サレハ契約ノ解除ヲ為シタルモノト看做ス

 くらべてみてすぐわかるところがあります。旧商法には,「商人間の売買において」がありませんでした。それゆえに争いがありました。通説及び判例(東京控判T15.9.15)は,商人間の売買に限ると解していましたが,商人間の売買に限られないとする有力な反対説がありました。平成17年の商法改正により,この争いに終止符が打たれたことになります。

商事売買 その1 [商法総則・商行為法]

 商事売買 その1

 商法第2章は,売買と題して,商事売買に関する5カ条を置いています。これらの規定は,民法の売買に関する規定の特則ですが,商人間の売買であって,しかも,当事者双方のために商行為である売買に関するものです。

 これらの規定は,民法の売買に関する特則なのですが,なぜにこのような規定が置かれているのか。それは,商事売買取引の迅速な処理を図るとともに売主の保護を図ることを目的としています。これは,商取引においては,その継続性,反復性,集団性から,迅速な処理が民法よりも一層強く要請されるし,商事売買では,その当事者がその世界における専門的知識を有する商人であるため,相当な期間内に一定の判断をして契約関係を速やかに終了させることができるからです。

 売主の保護?買主の保護の間違いではないのですかと言いたい人もいるかと思いますが,条文を読んでいけば,売主の保護だということが理解できます。売主の利益を強く保護するのは,売主の立場からみて特に取引の迅速な処理の要請があるということですが,それでは,不公平ではないかというと,商人間の売買ですから,商人はあるときは売主になり,あるときは買主となるということでしょうから(地位の互換性),買主になった場合に不利益な立場に立つことも許されてよいと考えられるからです。

 さて,それで,その5カ条をまず,読んでおきましょう。一度,読んで脳のどこかに入れておきましょう。来年,ひょっとしたら,役に立つかもしれません。この部分は,平成17年の商法改正で口語化されていますから,読みやすくなっています。

(売主による目的物の供託及び競売)
第524条  商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないとき は、売主は、その物を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができる。この場合 において、売主がその物を供託し、又は競売に付したときは、遅滞なく、買主に対してその旨の通知を発しな ければならない。
2  損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、前項の催告をしないで競売に付することができ る。
3  前2項の規定により売買の目的物を競売に付したときは、売主は、その代価を供託しなければならない。た だし、その代価の全部又は一部を代金に充当することを妨げない。

(定期売買の履行遅滞による解除)
第525条  商人間の売買において、売買の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間  内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないで その時期を経過したときは、相手方は、直ちにその履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみ なす。

(買主による目的物の検査及び通知)
第526条  商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査し なければならない。
2  前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又は その数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又 は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の 目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が6箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3  前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。

(買主による目的物の保管及び供託)
第527条  前条第一項に規定する場合においては、買主は、契約の解除をしたときであっても、売主の費用を  もって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならない。ただし、その物について滅失又は損傷のおそれ があるときは、裁判所の許可を得てその物を競売に付し、かつ、その代価を保管し、又は供託しなければなら ない。
2  前項ただし書の許可に係る事件は、同項の売買の目的物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
3  第1項の規定により買主が売買の目的物を競売に付したときは、遅滞なく、売主に対してその旨の通知を  発しなければならない。
4  前3項の規定は、売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の  区域内にある場合には、適用しない。

第528条  前条の規定は、売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合における当該売主か ら買主に引き渡した物品及び売主から買主に引き渡した物品の数量が注文した数量を超過した場合における 当該超過した部分の数量の物品について準用する。


 さて,次回は,このうち,会社法525条 定期売買の履行遅滞による解除について書こうと思います。民法との比較になります。民法542条です。

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