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民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し その3 [民法]

民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し つづき

黒が現在の民法の条文で青が要綱案です。

(親権の喪失の宣告)
第834条 父又は母が,親権を濫用し,又は著しく不行跡であるときは,家庭裁判所は,子の親族又は検察官の請求によって,その親権の喪失を宣告することができる。

第2 親権の喪失等
1 親権喪失の審判
父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは,家庭裁判所は,子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官の請求により,その父又は母について,親権喪失の審判をすることができるものとする。ただし,2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは,この限りでないものとする。


改正点が3点あります。第1に,親権喪失の原因(親権喪失の審判をすることができる場合),第2に,親権の喪失の審判の申立人の範囲,第3に,ただし書(親権喪失の原因の消滅)です。ここでは,第1と第2についてみてみることにします。

1 親権の喪失の原因
  「父又は母が,親権を濫用し,又は著しく不行跡であるとき」⇒「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」と改正しようとするものです。親権を喪失させるものであり,新たに設けられる親権停止の制度(親権を喪失させるのではなく一定期間停止する)を設けることから,停止の場合よりも重大な原因とされています。親権の喪失の原因の典型例として,虐待又は悪意の遺棄を例示したうえで,「子の利益を著しく害するとき」とされ,子の側からみて(現在の民法は一方的に親の側を見ています),子を守るために親権の喪失の審判をするのだということが読み取れます。親権は,子の利益のために行わなければならないのであって,子の利益を守るために,親権の停止,場合によっては親権の喪失の審判が行われるということですね。なお,これまで宣告とされていましたが,「審判」とされています。

 なお,親権の停止の原因は,「子又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」とされています(要綱案第2の2の1)。

2 親権の喪失の審判の申立人の範囲
  現在,民法上は,申立人は,「子の親族又は検察官」とされ,別に,児童福祉法33条の7により児童相談室長も,請求することができるものとされています。要綱案は,「子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官」として,子本人及び未成年後見人,未成年後見監督人を追加しています。この申立人については,親権の停止の審判と同一とするものとされています。

 申立人に子を加えることについては,かなりの議論があるようです。実際問題としては,年長の子どもが問題となるものと考えられます(もっとも,年齢による制限は設けられていません・・・一定年齢以上の子に限って認めるという考えもあったようですが)。児童相談室長その他の申立権者による適切な行使で足りるとか,親子関係を決定的に損なってしまう,子どもが親族間の紛争に巻き込まれる等々を理由とする反対論があるようですが,要綱案は,子を申立権者に加えました。児童相談室長その他の申立権者による適切な行使を期待することができない場合等があることを考慮したものと考えられます。

 民法834条は,明治民法の規定をそのままうけたものだと言われますが,明治民法制定の際,子本人が申し立てることができない理由として,「子トシテ親ヲ訴フルハ名分ノ上ニ於テ許ササル所ナルヲ以テ」(理由書156)ことが挙げられています。(名分とは,身分・立場などに応じて守らなければならない本分 大辞林)

 未成年後見人及び未成年後見監督人が追加されていますが,これは,親権者が親権を有していても,親権者が親権を行使することができないことを理由に未成年後見の開始の審判を受けている場合があることによります。特に,親権の停止の審判が行われた場合には,未成年者について後見開始原因となって,未成年後見人(及び未成年後見監督人)が選任されていたところ,虐待等の程度がひどくなって,親権の喪失の原因が生じた場合に効力を発揮するのではないかと思います。未成年後見人(及び未成年後見監督人)については,文言上,別に限定はありません。親権者が管理権の喪失の宣告を受けた場合にも,未成年後見が開始し,この場合に選任された未成年後見人も,親権の喪失の審判を申し立てることができると解されます。

 検察人が申立権者として残されています。検察官を除くのではないかということを何かで読んだ記憶があるのですが(明治民法から現民法になる際にも同じ問題が生じていたそうです。明治民法時代に検察官を申立権者から削除することになっていたが,現民法で,検察官を残したようです)・・・。実例としても,検察官が申立人となったことはないのではないかと思われるので,除くのではないかと・・・。しかし,要綱案は,検察官を残しました。親権喪失・親権停止によって子を救う最後の切り札として残しておくということでしょうか。注釈民法(23)P167は,現行民法で検察官も請求権者であるとされたことについて,「親権の義務性とくにその社会的義務性が強調されていることに照応するものと解する。」とされています。

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コメント 1

隼

「宣告」としていた箇所を「審判」と変更する等,改正により「宣告」→「審判」とされたことに伴う修正をしました。
by (2011-11-15 21:25) 

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