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再録 発起設立と募集設立 最終回 [会社法いろいろ]

 発起設立と募集設立をテーマにしてまだまだあるのですが,そろそろこれで最後にしようということで,その最終回として,2つほど。募集設立を存続させたために浮上した問題ではないかと私が考えるものです。

 最初は,発起設立によるか募集設立によるか,発起人は,これをいつまでに決めなければならないのかという問題です。原始定款の認証を受ける時まででしょうか,あるいは,その後の設立手続に入る時まででしょうか(例えば,会社法32条所定の設立時発行株式に関する事項の決定の時),これと連動するのですが,発起設立の手続で株式会社を設立することにして,設立手続を開始したが,その後,募集設立に変更することができるか。

 会社法の条文を見渡しても,いつまでにということは書いてありません。もちろん,設立時発行株式を引き受ける者の募集をして,引き受けた者が出資の履行をして・・・となるともはや発起設立というのはないのでしょうけどね。
 そこで,発起設立にするか募集設立にするか定款で定めて設立手続を開始することも,もちろん可能だけれど,その必要はない。通常は,設立時株式の決定事項を定める時に決定することになるのだろうと思います(実際は,株式会社を設立しようと思った時から,決まっていることだと思いますが,ここでは,決定のリミットの問題です)。発起人の出資の完了後でもいいと解されています(論点解説 新・会社法P26参照)。出資の完了後でもいいとなると,資金が足りないなということになったときに,募集して資金調達することが可能となります。つまり,発起設立で出発して,問題なく,募集設立とすることができるということです。旧商法時においては,このようにフレキシブルではなかったように思います。

 問題は,その次ですが,定款で取締役等を定めることができるかどうかです。旧商法時においては,実務では,発起設立においては許されるが,募集設立においては許されないと解されていました(商事法務No.1298 P38,実務相談1 P176参照)。通説もそうだったのではないでしょうか。募集設立は,発起人以外に株式引受人がいるから発起人だけで選任することはできず,創立総会で選任するのだというのがその理由です。

 では,会社法のもとではどうか。まず,発起設立においては,定款で設立時役員等をさだめることができることは,条文上の根拠があると言えます。会社法38条3項ですね。「定款で設立時取締役,設立時会計参与,設立時監査役又は設立時会計監査人として定められた者は,出資の履行が完了した時に,それぞれ設立時取締役,設立時監査役又は設立時会計監査人に選任されたものとみなす。」定款で設立時役員等を定めることができることが前提となっています。では,募集設立ではどうか。規定がありません。

 私は,募集設立を存続させた以上,その違いも存続するだろうと考えたということもありますが,発起設立にある規定が募集設立においてはないということから,これまでどおり,募集設立においては,定款で設立時役員等を定めることはできないだろうと考えました。ところが,立法担当官は,募集設立の場合にも許されるという見解を表明しました(登記情報540号 P16~P17)。その理由は,募集株式の引受けにより株主となる者に定款の内容を知る機会が与えられる上に,創立総会の決議によって定款の内容を変更することもできるというものです(同P16)。この見解が民事局の見解であると考えられます。

 旧商法時代の実務では,定款で取締役等を定めると,それは,発起設立であるということだったのですが,会社法のもとで上記の見解によれば,いくら設立時役員等が定款で定められていようとも,いずれであるかは,その後の手続によって判明するということになります。



再録 発起設立と募集設立 その4 [会社法いろいろ]

 会社法は,株式会社の設立の方法として,発募集設立の方法を存続させることにしました。これにより,依然として,両者の異同,比較が問題となります。もちろん,募集設立の方法を存続させて,発起設立と募集設立の方法の二つの方法があるということですが,だからと言って,これまでと全く同じではなく,各所に改正が加えられています。

 その中の一つ,払込取扱銀行等の払込金保管証明責任について,実は,これが,今回のシリーズのテーマだったのです。平成2年商法改正後,平成17年会社法成立まで,発起設立においても,募集設立においても,払込みは,発起人が定めた払込取扱金融機関(以後,払込取扱銀行等)でしなければならないことになっていて,その銀行等は払込金保管証明責任を負わされたのでした。これは,払込みの仮装を防止し,出資の履行を確実にするというのがその理由でした。

 このように,発起設立であっても,銀行等との間で銀行等が払込取扱銀行等となる委任契約をして,手数料及び報酬を支払わなければならなかったのです。銀行等が払込取扱銀行等になってくれた上で,ということで,費用がかかることはもちろん,時間もかかります。

 そこで,会社法は,発起設立について,払込みについて,発起人の定めた銀行等の払込み取扱場所においてしなければならないという点において,払込みの仮装を防止し,出資の履行を確実にするということを実現しようとするのですが(会社法34条2項),銀行等の払込金保管証明責任については,廃止しました。

 しかし,募集設立においては,この銀行等の払込金保管証明制度を存続させました。立案担当者は,どう説明しているでしょうか。

 「なお,会社法では,このように,発起設立の場合と募集設立の場合とで規律に差異を設けているが,これは,①株式会社の設立手続の遂行主体である発起人のみが出資者である場合には,出資者自身が,その出資された財産の保管に携われることから,特段の措置を設ける必要がないのに対し,②設立手続の遂行主体でない者が出資する場合であって,かつ出資の対象である株式会社がいまだ法主体としては成立していない状況にある募集設立においては,出資者が出資した財産の保管状況を明らかにする払込保管証明制度を維持することが相当であるためである。」(立案担当者による新・会社法の解説P18)

 「募集設立の場合には,いまだ会社が成立しておらず,また,設立事務に直接関与しない設立時発行株式の引受人が存在することから,そのような引受人の出資金が発起人等に不当に流用されないようにするため,払込金保管証明制度(64条)がなお維持されている。」(論点解説 新・会社法P29)ストレートに書いてあります。

 というわけで,立案担当者の見解では,払込金保管証明制度は,設立時発行株式の引受人だけの保護の規定だということです。設立された株式会社のためでなく,債権者のためでなくのように読めます。発起設立の場合には払込金保管証明制度はないのですから,そう説明せざるを得ないということでしょうか。前二者は,払込取扱銀行等の規制で賄っているということになりますね。

再録 発起設立と募集設立 その3 [会社法いろいろ]

 採録 2010.06.04から

 発起設立と暮秋設立 その3 募集設立の方法の存続の理由


 会社法制の現代化に関する要綱試案では,株式会社の設立手続を発起設立に一本化するという方針を立てたのに,会社法は,募集設立の方法を存続させることとしました。

 ということは,要綱試案の(注)にあった「実務上のニーズを踏まえ,なお検討する。」からきたものということになりますね。もっとも,「実務上のニーズを踏まえ,なお検討する。」は,「募集設立を廃止することに伴い,発起設立に関して見直すべき点があるかどうかについて,」につづくものです。「発起設立について見直すべき点があるかどうかについて」ですから,発起設立に一本化するというのは,前提のように読めます。

 ともあれ,募集設立を存続させたのは,「現在の実務において募集設立が用いられる可能性が皆無ではなく,設立当初から発起人としての責任を負わない形で出資者になることについてニーズが否定できないということもあり,結局,募集設立の方法も維持することとされ,・・・」という説明がされることになりました(立案担当者による新・会社法の解説P14~P15)。

 この「ニーズを否定できない」ということが,要綱試案補足説明のいう「試案では,募集設立に対する利用のニーズが減少していること,会社法制の現代化に当たり規定の簡素化・明瞭化を図るべきであること等の点を踏まえ,募集設立という方法を廃止し,発起設立という方法に一本化することとしている。」(旬刊商事法務No.1678 P47)からして,「規定の簡素化・明瞭化を図る」よりも,価値的に上であると位置づけられたことになります。果たして,会社法のもとで,どれだけ募集設立によって株式会社が設立されているか,それは,どのような株式会社か,資料がほしいところです。

 なお,要綱試案補足説明中に,「なお,募集設立を利用するニーズの主なものとして,設立手続における発起人と株式引受人との責任・義務・地位等の違いから,設立時点での株式会社に対する資金提供者とはなるものの,発起人としての責任を負わないことを望む者が存在するという指摘があるが,部会においては,このようなニーズに対しては,設立と同時に株式の譲渡を行うことにより対応が可能ではないかという意見が出された。」との記述があります。

 また,立案担当者による新・会社法の解説P14では,「なお,法制審議会会社法(現代化関係)部会における会社法制の現代化の検討過程においては,・・・・中略・・・発起設立の方法に一本化することも検討された。特に,会社法においては,株式会社の最低資本金制度が廃止されることから,少額の出資による発起設立をした直後に株式を引き受ける者を募集することにより,募集設立と実質的には同等の結果が得られることにかんがみると,募集設立を維持することに特段の意味はないとも考えられたためである。」という記述があります。

 このようにして,募集設立が存続となったことから,依然として,発起設立と募集設立との比較が重要な問題となっています。どこが,違うかですが,もちろん,理論的には,核は,設立時発起人以外の設立時募集株式の引受人の存在,その保護となります。

 その中のひとつ,払込取扱銀行等の保管証明責任に,次回,戻ることにします。

再録 発起設立と募集設立 その2 [会社法いろいろ]

 再録 2010.06.03から

 発起設立と募集設立 その2

 平成2年の商法改正において,発起設立の手続の改正が行われました。立法担当官の著「改正会社法」では,設立手続の合理化として,発起人の員数,最低資本金制度につづき,「発起設立における検査役の調査の廃止と株式の払込取扱機関の介在」という項目が挙がっています。

 えっ発起設立においては検査役の調査は,平成2年の改正によってなくなっていたのか・・・。そうではありません。調査の対象の問題です。それまで,発起設立においては,変態設立事項だけでなく,払込み及び現物出資の給付の有無についても,裁判所に検査役の選任を請求して,検査役の調査を受けなければならなかったのですが,これを廃止したのです。払込み及び現物出資の給付の有無について検査役の調査を要するとするのは,払込取扱銀行等において払込みをしなければならないとはされていなかったことと対になっていました。そこで,同時に,募集設立だけでなく,発起設立においても,払込取扱銀行等においてしなければならないとされました。

 そして,同時に,払込取扱銀行等の払込金保管証明についても,それまでは,募集設立についてのみ適用があったのですが,この改正により,発起設立においても適用があることとされました。

 さて,会社法はどうなっていますか?払込取扱銀行等への払込みという点については,募集設立と発起設立とで違いはありませんよね。では,払込取扱銀行等の払込金保管証明制度についてはどうでしょうか? そうです。募集設立の場合だけとなっています(会社法64条)。この払込金保管証明制度の点においては,平成2年の商法改正前に戻ったことになります。

 発起設立において,上記の改正をした理由は何か。それは,多くの場合,発起人以外の者から出資を募集することはないだろうから,株式会社を設立するには募集設立の方法よりも発起設立が適当である・・・にもかわらず,それまで,発起設立の利用が少なかった・・・どうしてだろう・・・。それは,発起設立の手続によれば,変態設立事項がなくても,かならず裁判所に検査役選任の請求をしてその検査を受けなければならない,時間がかかる(費用もかかる),迅速に設立できない・・・これが原因ではないか・・・。発起設立を利用されやすいようにするべきであるが,どうすればよいか,上記の検査役の調査を廃止するのがよい,しかし,出資の履行を確保する必要がある・・・払込取扱銀行等においてということにしよう・・・というわけです(現物出資についても他の方法による給付の確保に関する一定の手当てがされました)。

 このような改正が行われた結果,さて,会社法制の現代化に関する要綱試案を作成する段階において,株式会社の設立の方法としては,「募集設立に対するニーズが減少している」(会社法制の現代化に関する要綱試案補足説明)ということになりました。

 「会社法制の現代化に関する要綱試案補足説明」において,株式会社の設立方法を発起設立に一本化する理由として,次のように述べられています。

 「・・・募集設立に相当する設立手続がない有限会社と株式会社との規律を一体化するに当たり,両者の差異をどのように調整するかが問題となる。
 さらに,発起設立と募集設立という二つの設立手続に関する規定が設けられているため,株式会社の設立手続は極めて複雑で分かりにくい規定となっている。
 試案では,募集設立に対する利用のニーズが減少していること,会社法制の現代化に当たり規定の簡素化・明瞭化を図るべきであること等の点を踏まえ,募集設立という方法を廃止し,募集設立という方法に一本化することとしている。」

 というのですが,しかし,会社法は,募集設立の方法を存続させました。なぜなのでしょうか?次回です。



 8月2日からtwitter版 司法書士試験受験生のためのCheck Test 会社法を再開しました。

 http://twitter.com/ueda_m

再録 発起設立と募集設立 [会社法いろいろ]

 このところ,今年の司法書士試験の午前の部商法をみて,これに関連したことを書いてきましたが,商法は,昨日で,受験生の皆さんが,気になっていた問題については,一応終了したような気がしています。

 さて,今日はどうするかな,しばらく違うことするかな,一般社団・財団法人がとうとう出題されたことでもあるし,その問題にでも行こうかなと思いましたが,twitterでつぶやいたように,昨日から,このブログへのアクセスが急増して,初めて読むと言う方が大勢のようなので,過去書いたもので,今年の本試験に関係ありそうなものを読んでもらうのがいいなと思いました。

 それで,過去のブログを見ていたのでしたが,今年の第27問 発起設立と募集設立の比較に関して,次のものを読んでもらおうと思います。探し出すのが面倒だと言う声も聞こえてきそうなので,何回かにわたっての再録です。発起設立と募集設立の比較は,会社法施行後直後の平成18年でも出題されています。落としてはならない問題となっています。


 再録 2010.06.01から

 発起設立と募集設立 その1

 今を去ること何年前になるでしょうか。平成15年10月22日に法制審議会会社法(現代化関係)部会は,会社法制の現代化に関する要綱試案を発表しました。それから,かなり早い時期だったと思いますが,説明会が開催されたので聞きに行きました。どこであったのか,はっきりとした記憶がありません。平成2年の商法改正以来,改正に係る法制審議会部会長や立法担当官による説明会や講演会,パネルディスカッション等できるかぎり聞きに出かけて行くようにしていたのですが,会場がいろいろなところであったため,どこの会場だったか,情けないことに,特定できません(九段会館?)。もっとも,会場はどこでもいいのですが,壇上に立たれたのは,江頭先生であったという記憶は,はっきりしています。それまで,法制審議会の部会長として登場されるのが前田先生だったのですが,そのときから,前田先生から江頭先生に代わって,初めての説明会だったと思います。

 会社法制の現代化に関する要綱試案では,驚くことがたくさんありました。その中の一つが,株式会社の設立手続の方法を一本化し,発起設立だけにするというものでした。次のとおりです。

 第四部 株式会社・有限会社関係 第二 設立等関係 3 募集設立 「株式会社の設立手続のうち募集設立という方法を廃止し,発起設立に一本化するものとする。」

 今,この要綱試案を読み返してみれば,確かに(注)があって,(注)「募集設立を廃止することに伴い,発起設立手続に関して見直すべき点があるかどうかについて,実務上のニーズを踏まえ,なお検討する。」とあります。この(注)により,会社法は,募集設立を存続させたのでした。

 私は,この説明会の後,講義で何度か,商法が改正されれば,発起設立だけになりますと話したことがあります。今頃何を言っているか・・・ですが,取り消さなければなりませんね。しかし,説明会の時以後,ずっと,新しい会社法では,発起設立しかないと思い込んでいましたから。だから,講義で,商法が改正されれば,株式会社の設立手続の勉強は簡単になりますねと言ったのでした。

 ところが,会社法は,募集設立の手続を存続させたのでした。では,法制審議会は,なぜ,発起設立一本化の方針を立てたのでしょうか。平成2年の商法改正にさかのぼります。次回です。

 受験勉強に直結しないかもしれませんが,へ~昔はそうだったんだという感じで読んでもらえばいいと思います。それによって,現在がどうかきちんと記憶にとどまるのではないでしょうか。また,本職になってから,制度改正を考えるときに,もしや役に立つかもしれません。

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定時株主総会の季節 最終回 [会社法いろいろ]

 見ていて,そうなのかと思ったこと。
 会計監査人の報酬等の金額に驚きました。驚いてはいけないのかもしれませんが。大大会社だからなのかもしれませんが,甲株式会社は,当社が支払うべき会計監査人としての報酬等の額105(単位百万円)・・・ということは・・・それから,当社および子会社が支払うべき金銭その他の財産上の利益の合計額309(単位百万円)・・・ということは,合計…。
監査報告書には,当該監査法人の指定社員 業務執行社員として,3人が記載されています。

 乙株式会社はホールディングスなのですが,①当事業年度に係る会計監査人としての報酬等の額 14,600千円 ②当社及び当社子会社が支払うべき金銭その他の財産上の利益の合計額 422,360千円 ③②のうち公認会計士法第2条第1項の業務に係る報酬等の額 421,268千円となっています。
監査報告書には,当該監査法人の指定有限責任社員 業務執行社員として4人が記載されています。

 丙株式会社は,というと,当事業年度に係る会計監査人としての報酬等 96百万円 当社および当社子会社が会計監査人に支払うべき金銭その他の財産上の利益の合計額 314百万円となっています。
監査報告書には,当該監査法人の指定有限責任社員 業務執行社員として3人が記載されています。

 3社の会計監査人は,有名な監査法人ですが,乙会社と丙会社は,同じ監査法人です。


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定時株主総会の季節 その8 [会社法いろいろ]

 代理人の員数の制限の問題です。
会社法310条5項は,「株式会社は,株主総会に出席することができる代理人の数を制限することができる。」としています。これは,通常は,複数の代理人によって議決権を行使することを認める理由はないこと,及び1人の株主が多くの代理人を総会に出席させて総会の運営を混乱させること(総会荒し)を防止する必要があるからです。上記の規定は,株式会社が代理人の数をあらかじめ制限していた場合にのみこれに株主が拘束されることを意味し,代理人の数を制限するためには,株主総会招集決定事項として定め(定款に定めがある場合は除く),招集通知に記載し,又は記録しなければならないとされています(会社法298条1項5号,施行規則63条5号,会社法299条4項)。

 さて,では,3社の招集通知を見てみましょう。
甲株式会社
なお,議決権を有する他の株主1名を代理人として株主総会にご出席いただくことが可能です。委任状を議決権行使書用紙とともにご提出ください。

乙株式会社
 議決権の代理行使につきましては,定款の定めにより,議決権を有する株主の方1名様に委任する場合に限られておりますので,ご了承ください。

丙株式会社
 探しましたが,みつかりません。なお,探している途中で,招集通知の方に,インターネット等により複数回,議決権を行使された場合は・・・となっているのを発見しました。

 このほか,気になることもいくつかありますが(特に計算書類),このあたりで,定時株主総会について終了ということに・・・,そう言いながら,見ていて,会計監査人の報酬で,驚いてしまったというか,知らなかったもので,そのことについて明日書くことにします。もう一回続きます。

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定時株主総会の季節 その7 [会社法いろいろ]

 議決権の代理行使の問題です。

 釈迦に説法的なところから入ります。
 株主は,代理人によってその議決権を行使することができるとされています(会社法310条1項前段)。これは,株主の議決権の行使を容易にし行使の機会を保障するためです。株主の出席による自らの行使が困難な場合もあり,これを強制すると,議決権の行使を事実上奪うことにもなりかねず,また,株式会社では,持分会社の社員と異なり,株主は個性を有しない建前であるから,株主自身の出席を強制する必要もないからですね。

 問題となるのは,代理人の資格の制限です。多くの株式会社では,代理人の資格を株主に限る旨の定款の定めが置かれているようです。会社法に制限することができる旨の規定が商法時代から置かれていないことから,この定款の定めが有効かどうかについて争われてきました。

 旧商法時代ですが,最高裁判所は,このような定款の規定は,株主総会が,株主以外の第三者によって攪乱されることを防止し,会社の利益を保護する趣旨に出たものと認められ,合理的理由による相当程度の制限ということができるとして,旧商法239条2項に反せず有効であるとしています(最判S43.11.1,最判S51.12.24)。登記先例は,これに従い有効説に変更されました(S44.3.6第381号)。そこで,この判例及び先例のもとで,株式会社は,このような定款の規定があれば,原則として,株主でない者が株主の代理人として議決権を行使することを拒むことができることになります。

 手許にある3社はどうか。定款を見ていませんが,招集通知の記載から,いずれも,株主に限っていると推測されます。

 それから,株主が代理人によって議決権を行使する場合には,その株主又は代理人は,代理権を証明する書面(委任状)を株式会社に提出しなければならないとされている点を注意しておきます(会社法310条1項後段)。これは,委任による代理人について,代理関係の有無を明確にし,株主総会における決議の成否を円滑にするためです。なお,株主又は代理人は,この代理権を証明する書面の提出に代えて,政令で定めるところにより,株式会社の承諾を得て,当該書面に記載すべき事項を電磁的方法で提供することができ,この場合において,当該株主又は代理人は,当該書面を提出したものとみなされるとされています(会社法310条3項)。

 以下,明日に続きます。代理人の員数の制限の問題と3社の議決権の代理行使に関する招集通知の記載についてです。

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定時株主総会の季節 その6 [会社法いろいろ]

 電子投票の重複ですが,これはありそうです。簡単にできますからね。会社側にとってはうれしいことではないと思いますが。株主総会の招集通知を発して,株主総会が開催される前に,不祥事が起こった場合等,投票を変更したくなります(役員改選のときは特にそうです)。
書面投票はどうでしょうか。書面投票が重複する場合がそもそもあるのかです。ないと思って,「定時株主総会の季節 その2」http://bit.ly/dymdqs では,最初,ないだろうと書きました。どうしてかというと,はがき(議決権行使書面)が1枚しか入っていないからです。しかし,その後,その部分を書き換えました。

 というのは,会社法施行規則63条3号ヘを改めてきちんと読んだからです(読みにくいというか読むのが面倒)。みんなで読めばこわくない・・・面倒でない??

 ヘ 一の株主が同一の議案につき次に掲げる場合の区分に応じ、次に定める規定により重複して議決権を行使した場合において、当該同一の議案に対する議決権の行使の内容が異なるものであるときにおける当該株主の議決権の行使の取扱いに関する事項を定めるとき(次号に規定する場合を除く。)は、その事項
(1) 法第298条第1項第3号に掲げる事項を定めた場合 法第311条第1項
(2) 法第298条第1項第4号に掲げる事項を定めた場合 法第312条第1項

 会社法298条1項は,株主総会を招集する場合に決定すべき事項を定めていますが,その3号というのは,「株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは,その旨」書面投票です。4号は,「株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは,その旨」電子投票です。それで,会社法311条第1項というのは,「書面による議決権の行使は,議決権行使書面に必要な事項を記載し,法務省令で定める時までに当該記載をした議決権行使書面を株式会社に提出して行う。」,会社法312条第1項というのは,「電磁的方法による議決権の行使は,政令で定めるところにより,株式会社の承諾を得て,法務省令で差定める時までに議決権行使書面に記載すべき事項を,電磁的方法により当該株式会社に提供して行う。」

読むのが面倒だったかもしれませんが,つまり,株主が重複して書面による議決権を行使した場合,及び株主が重複して電磁的方法による議決権の行使をした場合について,株主が書面による議決権の行使と電磁的方法による議決権の行使をした場合についてと同様に,その取扱いに関する事項を定めてそれを議決権行使書面か招集通知に記しておくことができることとしているわけです。つまり,それぞれ招集者が定めることができるのだよというわけです。
会社法施行規則は,書面投票が重複して行われることを想定しているのです。普通はないと思うのですが・・・。

 さて,では,手許にある3社の招集通知あるいは議決権行使書面は,何か書いてあるでしょうか。

甲株式会社
インターネットによって,複数回,議決権を行使された場合は,最後に行われた行使を有効として取り扱わせていただきます。
書面投票を重複して行使した場合については,記載がありません。

乙株式会社
インターネットによって,複数回数,議決権行使をされた場合は,最後に行使されたものを有効な議決権行使として取り扱わせていただきます。
書面投票を重複して行使した場合については,記載がありません。

丙株式会社
インターネットにより2回以上議決権を行使された場合は,最後に行われたものを有効な議決権行使として取り扱わせていただきます。
書面投票を重複して行使した場合については,記載がありません。

いずれも,同じですね。

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真弓です。仕事場の庭にあります。

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定時株主総会の季節 その5 [会社法いろいろ]

 招集者が,書面による議決権の行使と電磁的方法による議決権の行使とを重複して行使した場合の取扱いについて,会社法施行規則を読んでよく知った上で,議決権行使書面又は招集通知に記していれば問題はないのですが,知らずに,あるいは条文を読まずに,この点について,何ら記していなかった場合はどうでしょう。

 ありそうですね。

 この点については,解釈論となるわけで,支配権の争いが起こったときに,こういうことがあれば,大変でしょうね。神田先生は,後に到着した投票が優先するという見解のようです。浜田先生は,株主が後に発したことが明らかな投票を有効と扱い,先後関係が不明であれば,いずれの投票も認めないのが適切であろうとされています(逐条解説会社法第4巻P152)。

 電子投票は,インターネットを使うわけですから,瞬時に到達します。はがきを出した場合には,瞬時というわけにはいきません。はがきで第1号議案について賛に○をつけて出したが,その夜,考えが変わって,否として電子投票をしたという場合も当然あるでしょうから,それでも,後から到達したはがきによる議決権の行使が有効というのは不合理かなと思えます。浜田先生の見解が妥当かなと私は思いますが,どうでしょう。

SA380216.JPG

夏は,朝顔とひまわりが好きです。

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定時株主総会の季節 その4 [会社法いろいろ]

 書面による議決権の行使と電磁的方法による議決権の行使が可能である場合に,書面による議決権の行使をした後に電磁的方法による議決権の行使をすることができるか(逆の場合もありますね),現実に重複して議決権を行使した場合に,その内容が異なったとすると(一方が賛成で他方が),どちらが議決権の行使として有効か。

 あるのでしょうか,こういうことが。施行規則にこれに関する規定があるのですが,施行規則に規定しなければならないほどまでにあるのでしょうか。電磁的方法による議決権の行使(電子投票)は,簡単にできるから,あるということなのでしょうね。

 できるかできないかという問題設定をしてしまいましたが,常識的に考えれば,株主にとってみれば,どちらか一方だけが認められればよいという性質のものですから,できるかできないかという問題設定であれば,できないと言うべきではないかと思います(それで株主の保護もしくは権利としては充分だからです)。両方認める必要はありません。しかし,できないと言ってみても,問題となるのは,実際に行われてしまった場合に,その内容が異なるときに,どちらを有効とするかです。

 会社法施行規則は,このように書面による議決権の行使と電磁的方法による議決権の行使が重複することがあることを想定して,議決権の行使の内容が異なるものであるときに備え,その取扱いに関する事項を定めてそれを議決権行使書面か招集通知に記しておくことができることとしています(施行規則63条4号ロ,66条1項3号,3項,4項)。つまり,それぞれ招集者が定めることができるのだよというわけです。

 会社法施行規則63条4号ロは,次のとおりです。
 「一の株主が同一の議案につき法第311条第1項又は第312条第1項の規定により重複して議決権を行使した場合において、当該同一の議案に対する議決権の行使の内容が異なるものであるときにおける当該株主の議決権の行使の取扱いに関する事項を定めるときは、その事項」

 手許にある3社はどうしているでしょう。まず,議決権行使書面あるいは招集通知に記載しているかどうか。どのように記載されているか。

甲株式会社 
 記載されています
 「議決権の行使は,お手許の議決権行使書用紙による郵送にて議決権を行使する方法,または当社の議決権行使サイトによる方法のいずれか一方によってのみ行使することができます。双方で行使することのないようご注意ください。
なお,双方で行使された場合は,インターネットによる議決権の行使を有効とさせていただきます。」

乙株式会社
 記載されています。
「書面とインターネットにより,二重に議決権を行使された場合には,インターネットにより行使されたものを有効な議決権行使として取り扱わせていただきます。」

丙株式会社
 記載されています。
 「インターネットと議決権行使書用紙の双方で議決権を重複して行使された場合は,後に到着したものを有効な議決権行使として取り扱わせていただきます。なお,同日に到着した場合は,インターネットによる議決権行使を有効なものとして取り扱わせていただきます。」

 以上3社をくらべてみると,甲株式会社と乙株式会社は,電子投票優先です。したがって,例えば,6月20日にはがきを出して, 6月21日に電子投票をして会社がこれを即時に受領した後,はがきが6月21日に到着したという場合でも,電子投票の方が有効となります。しかし,同じ例で,丙株式会社では,書面投票の方が有効となるという逆の結論となります。

 招集者がこのような場合について議決権行使書面又は招集通知に記していれば問題はないのですが,何ら記していなかった場合はどうか。電子投票が重複して行われたときはどうかについては,次回とします。

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定時株主総会の季節 その3 [会社法いろいろ]

 株主が書面による議決権行使書面を送付した場合であっても,当該株主は,株主総会に出席して議決権を行使することができるか。同様に,株主が電磁的方法により議決権を行使した場合であっても,株主総会に出席して議決権を行使することができるか。

 結論からです。できます。この点については,明文の規定はありませんが,会社法298条1項3号及び4号は,「株主総会に出席しない株主が書面によって・・・電磁的方法によって」と規定してあります。書面投票及び電子投票は,株主総会に出席しない株主のためのものであり,いったん書面投票・電子投票をしたからといって,本則である株主総会に出席して議決権を行使することを否定することはできません。理論的には,まだ議決権行使の効果は発生していないわけですから,禁止規定がないかぎり,撤回(取消しではありません)することができますが,株主総会への出席は,この撤回とみることができます。

 株式会社側は事務処理上厄介かもしれませんが,株主総会に出席しての議決権の行使が本則です。なお,書面による議決権の行使の場合には,議決権行使書をポストに入れてしまって手許に残りませんから,受付けで,その旨を告げて会場に入ることができることになると思われます(株式会社側は,当該株主が書面投票をしているかどうか,照合するのだと思いますが,何らかの証明を要求するでしょうね)。電子投票の場合には,手許に残りますから,それを持って株主総会に出かけることになります。

 以上の点につき,今手許にある3社の招集通知にどこかこれに関する記載があるかなと思ってみましたが・・・・どう思います?見当たりませんね。そりゃ,記載しませんよね。


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自宅入口

定時株主総会の季節 その2 [会社法いろいろ]

 昨日からの続きです。書面による議決権の行使(書面投票)と電磁的方法による議決権の行使(電子投票)の手続等について,会社法及び会社法施行規則がどういう規定を置いているか,会社法施行規則のもとで,実際にはどのようにおこなわれているのだろうかということです。

 招集通知及び議決権行使書をみて考えた問題としては,以下のものがあります。

 第1に,議決権の行使の期限の問題です。いつまでに行使しなければならないか。会社法及び会社法施行規則はどのように規定しているか。

 第2に,株主総会当日は都合が悪くて出席できないと考えたため,書面による議決権の行使をしたが(議決権行使書面(はがき)の賛否の欄に○で印をつけて送った),都合がついて,株主総会に出席できることになったのだが,さて,出席して議決権を行使することができるだろうか。これは,電磁的方法による議決権を行使したときも同じことが言えます。

 第3に,ほとんどの(おそらく)上場会社では,電磁的方法による議決権の行使を認めていると思われますが,書面による議決権の行使をした後に電磁的方法による議決権の行使をすることができるか,あるいはした場合に,どちらを議決権の行使として認めることにするか。同じであればいいけれど,違う場合にどうなるかですね。

 第4に,書面による議決権の行使の場合には,招集通知の封筒の中には,はがきが1枚しか入っていませんから,2度行使するということは実際上は難しいのではないかと思われますが,電磁的方法による議決権の行使の場合には,何度でもできそうですね(技術的には,一度行使すればできないというシステムを組むことも可能だと思いますが),期限内であれば何度でもできるのか(例えば,いくつかの議案について,賛成の投票をしたのだが,その後,反対しようと考えたとき変更できるのか)。

書面による議決権の行使及び電磁的方法による議決権の行使は,いつまでにしなければならないか。

条文は,会社法311条1項,311条2項,と会社法施行規則69条,70条です。

 「書面による議決権の行使は,議決権行使書面に必要な事項を記載し,法務省令で定める時までに当該記載をした議決権行使書面を会社に提出して行う。」(会社法311条1項),「電磁的方法による議決権の行使は,政令で定めるところにより,株式会社の承諾を得て,法務省令で定める時までに議決権行使書面に記載すべき事項を,電磁的方法により当該株式会社に提供して行う。」(会社法312条1項)。法務省令に委任してますね。

 法務省令である会社法施行規則は,書面による議決権行使の期限として,会社法311条1項に規定する法務省令で定める時は,株主総会の日時の直前の営業時間の終了時であるとし,招集の決定事項として「特定の時」をもって書面による議決権の行使の期限とする旨を定めるときは,その特定の時としています(施行規則69条)。電磁的方法による議決権行使の期限も同様です(施行規則70条)。

 まず,原則ですが,株主総会の日時の直前の営業時間の終了時までに議決権を行使しなければならないとなっています。これは,集計作業の実務上の負担に配慮したものであると言われています(逐条解説会社法第4巻 P152参照)。旧商法は,「総会ノ会日ノ前日マデニ」となっていました。つまり,前日の24時までにということだったのです(旧商法239ノ2第5項,239条ノ3第5項)。

 会社法施行規則は,招集者が何も定めないのであれば,株主総会の日時の直前の営業時間の終了時までであるが,株主総会の招集にあたって,招集者は,「特定の時」をもって期限とすることができるものとしています。ただし,その「特定の時」は,株主総会の日時以前の時であって(これは,当たり前のことですね),会社法299条1項の規定により通知を発した時から2週間を経過した時以後の時に限定しています(同括弧書,ぎりぎりで招集通知を出すと,原則通りになってしまう可能性が高い)。

 さて,実務はどうなっているでしょう?私は,ほとんどの株式会社が,株主総会の日時の直前の営業時間の終了時よりも前の「特定の時」を定めると思っていました。集計作業で間違えないように時間のゆとりがほしいと思うだろうと。

 手許にある3社の議決権行使書あるいは招集通知は,次のようになっています。

甲株式会社
定時株主総会 6月23日(水曜日)
議決権行使書のはがきの表の切り取り線の下には,「6月22日(火曜日)午後5時30分までに到達するようにご返送ください。」と記載されています。
また,招集通知に,「インターネットによる議決権の行使は,平成22年6月1日(火)から平成22年6月22日(火)午後5時30分までに行使されるようお願いいたします。なお,毎日午前2時から午前5時まではお取り扱いを休止します。」との記載があります。
書面投票と電子投票は,基本的に同じ取扱です。

乙株式会社
定時株主総会 6月28日(月曜日)
はがきの表 切取線の左 「議決権行使書をご郵送の際は,この部分をお切り離しいただき,平成22年6月26日17時30分までに到着するようご投函ください。」とあり,裏には,「議決権をインターネットで行使される場合は,・・・平成22年6月27日24時までにご投票ください。この場合,議決権行使書を返送される必要はありません。」とあります。
書面投票と電子投票とで異なりますね。

丙株式会社
定時株主総会 6月29日(火曜日)
はがきの裏 切取線の右 「1.株主総会にご出席願えない場合は,この議決権行使用紙に賛否をご表示いただき,平成22年6月28日午後5時までに到着するようご返送ください。」「4.議決権をインターネットで行使される場合は,・・・平成22年6月28日午後5時までにご投票ください。この場合,議決権行使書を返送される必要はありません。」とあります。

せっかく会社法施行規則が特則を設けているのですから,すくなくとも,2,3日は余裕をおくのではないかと思っていましたが,違いました。3社しか見ていませんから,一般的に,どうなのかわかりませんが,しかし,他の上場会社もおなじなのだろうなという気がします。

乙株式会社の場合の前日の24時までというのは,意外ですね。ぎりぎりで行使してくる株主がどのくらいいるかの話になるでしょうが,徹夜するのかな?それとも・・・。

第4に・・・の文章について,修正を行いました。6月10日17時05分


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常盤公園

定時株主総会の季節 [会社法いろいろ]

 株主総会の招集通知が一昨日から届き始めました。一昨日は,3社ほどです(何社もの株式をもっているわけではありません,念のため)。いずれも,みなさんご存知の大会社です。机の上に3社分のものを広げたら,これに関連して何か書いてみようという気になりました。

 第1頁目は,第○○回定時株主総会招集(の)ご通知となっています。一つは,第157回,一つは,第12回,一つは,第8回です。三つ目の株式会社は,回数が少ないですが,持株会社です(だから回数が少ないのですね)。8年前が第1回であるわけですが,株式交換・株式移転制度創設(改正法は,平成11年8月13日成立,同年10月1日施行)によって,完全親会社になったということでしょうね。二つめは,新設合併だったのかな?

 開催日時は,6月23日(水曜日),6月28日(月曜日),6月29日(火曜日)とばらばらですね。かつて一斉に同じ日だったと思いますが,近年は,ばらばらなのでしょうか。それでも,上場会社のほとんどは,事業年度の末日(決算期)が3月31日でしょうから,この6月の下旬なのでしょうが,集中する日があるはずですよね。何日が一番多いのでしょうか。6月29日かな?

上場会社ですから,公開会社で,招集通知は,2週間前までに発しなければなりませんが(会社法299条1項),ゆとりで発送しています。

 3社とも株主が1,000人以上ですから(大きな会社ですからね,当たり前のことばかり書いていますが…),書面投票制度(書面による議決権の行使)の採用が強制されていますので(会社法298条2項),はがきが入っています。議決権行使書と印刷してあります。議決権行使書面です。電子投票はとなると,これは,任意採用ですよね。しかし,大会社ですから,それぞれ,採用しています。いまどき・・・というところでしょうか。それぞれ議決権行使書面と同一のものにミシン目が入って,切り取れるところに,その中の一つの株式会社では,お願いの項目の最後のところに,「議決権をインターネットで行使される場合は,下に記載のウェブサイトに議決権行使コードとパスワードによりアクセスのうえ,平成22年6月28日午後5時までにご投票ください。この場合,議決権行使書を返送される必要はありません。」とあって,議決権行使ウェブサイトのアドレスと議決権行使コード,パスワードが印刷されています。この株式会社は,定時株主総会は,6月29日です。

 さて,書面による議決権の行使も,電磁的方法による議決権の行使も,いつまでにしなければならないかの問題があります。会社法は,「書面による議決権の行使は,議決権行使書面に必要な事項を記載し,法務省令で定める時までに当該記載をした議決権行使書面を株式会社に提出して行う。」(会社法311条1項),「電磁的方法による議決権の行使は,政令で定めるところにより,株式会社の承諾を得て,法務省令で定める時までに議決権行使書面に記載すべき事項を,電磁的方法によって当該株式会社に提供して行う。」(会社法311条1項)とされています。法務省令は,会社法施行規則69条と70条です。読んでおいてください(例によって括弧書があるので,この際きちんと読みましょう。63条もです)。

 このつづきは,明日ということにします。

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庭にたくさんあります。レモンタイム。よく車で踏んでしまうのですが,いいにおいを発します。

発起設立と募集設立の最終回 [会社法いろいろ]

 発起設立と募集設立をテーマにしてまだまだあるのですが,そろそろこれで最後にしようということで,その最終回として,2つほど。募集設立を存続させたために浮上した問題ではないかと私が考えるものです。

 最初は,発起設立によるか募集設立によるか,発起人は,これをいつまでに決めなければならないのかという問題です。原始定款の認証を受ける時まででしょうか,あるいは,その後の設立手続に入る時まででしょうか(例えば,会社法32条所定の設立時発行株式に関する事項の決定の時),これと連動するのですが,発起設立の手続で株式会社を設立することにして,設立手続を開始したが,その後,募集設立に変更することができるか。

 会社法の条文を見渡しても,いつまでにということは書いてありません。もちろん,設立時発行株式を引き受ける者の募集をして,引き受けた者が出資の履行をして・・・となるともはや発起設立というのはないのでしょうけどね。
 そこで,発起設立にするか募集設立にするか定款で定めて設立手続を開始することも,もちろん可能だけれど,その必要はない。通常は,設立時株式の決定事項を定める時に決定することになるのだろうと思います(実際は,株式会社を設立しようと思った時から,決まっていることだと思いますが,ここでは,決定のリミットの問題です)。発起人の出資の完了後でもいいと解されています(論点解説 新・会社法P26参照)。出資の完了後でもいいとなると,資金が足りないなということになったときに,募集して資金調達することが可能となります。つまり,発起設立で出発して,問題なく,募集設立とすることができるということです。旧商法時においては,このようにフレキシブルではなかったように思います。

 問題は,その次ですが,定款で取締役等を定めることができるかどうかです。旧商法時においては,実務では,発起設立においては許されるが,募集設立においては許されないと解されていました(商事法務No.1298 P38,実務相談1 P176参照)。通説もそうだったのではないでしょうか。募集設立は,発起人以外に株式引受人がいるから発起人だけで選任することはできず,創立総会で選任するのだというのがその理由です。

 では,会社法のもとではどうか。まず,発起設立においては,定款で設立時役員等をさだめることができることは,条文上の根拠があると言えます。会社法38条3項ですね。「定款で設立時取締役,設立時会計参与,設立時監査役又は設立時会計監査人として定められた者は,出資の履行が完了した時に,それぞれ設立時取締役,設立時監査役又は設立時会計監査人に選任されたものとみなす。」定款で設立時役員等を定めることができることが前提となっています。では,募集設立ではどうか。規定がありません。

 私は,募集設立を存続させた以上,その違いも存続するだろうと考えたということもありますが,発起設立にある規定が募集設立においてはないということから,これまでどおり,募集設立においては,定款で設立時役員等を定めることはできないだろうと考えました。ところが,立法担当官は,募集設立の場合にも許されるという見解を表明しました(登記情報540号 P16~P17)。その理由は,募集株式の引受けにより株主となる者に定款の内容を知る機会が与えられる上に,創立総会の決議によって定款の内容を変更することもできるというものです(同P16)。この見解が民事局の見解であると考えられます。

 旧商法時代の実務では,定款で取締役等を定めると,それは,発起設立であるということだったのですが,会社法のもとで上記の見解によれば,いくら設立時役員等が定款で定められていようとも,いずれであるかは,その後の手続によって判明するということになります。


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奈良の大仏様のふるさと
近くに銅山があってここから採れた銅を使って東大寺の大仏様を作ったのだそうです。
銅山跡は,自宅から車で15分か20分くらいのところにあります。

発起設立と募集設立 その4 [会社法いろいろ]

 会社法は,株式会社の設立の方法として,発募集設立の方法を存続させることにしました。これにより,依然として,両者の異同,比較が問題となります。もちろん,募集設立の方法を存続させて,発起設立と募集設立の方法の二つの方法があるということですが,だからと言って,これまでと全く同じではなく,各所に改正が加えられています。

 その中の一つ,払込取扱銀行等の払込金保管証明責任について,実は,これが,今回のシリーズのテーマだったのです。平成2年商法改正後,平成17年会社法成立まで,発起設立においても,募集設立においても,払込みは,発起人が定めた払込取扱金融機関(以後,払込取扱銀行等)でしなければならないことになっていて,その銀行等は払込金保管証明責任を負わされたのでした。これは,払込みの仮装を防止し,出資の履行を確実にするというのがその理由でした。

 このように,発起設立であっても,銀行等との間で銀行等が払込取扱銀行等となる委任契約をして,手数料及び報酬を支払わなければならなかったのです。銀行等が払込取扱銀行等になってくれた上で,ということで,費用がかかることはもちろん,時間もかかります。

そこで,会社法は,発起設立について,払込みについて,発起人の定めた銀行等の払込み取扱場所においてしなければならないという点において,払込みの仮装を防止し,出資の履行を確実にするということを実現しようとするのですが(会社法34条2項),銀行等の払込金保管証明責任については,廃止しました。

しかし,募集設立においては,この銀行等の払込金保管証明制度を存続させました。立案担当者は,どう説明しているでしょうか。

 「なお,会社法では,このように,発起設立の場合と募集設立の場合とで規律に差異を設けているが,これは,①株式会社の設立手続の遂行主体である発起人のみが出資者である場合には,出資者自身が,その出資された財産の保管に携われることから,特段の措置を設ける必要がないのに対し,②設立手続の遂行主体でない者が出資する場合であって,かつ出資の対象である株式会社がいまだ法主体としては成立していない状況にある募集設立においては,出資者が出資した財産の保管状況を明らかにする払込保管証明制度を維持することが相当であるためである。」(立案担当者による新・会社法の解説P18)

 「募集設立の場合には,いまだ会社が成立しておらず,また,設立事務に直接関与しない設立時発行株式の引受人が存在することから,そのような引受人の出資金が発起人等に不当に流用されないようにするため,払込金保管証明制度(64条)がなお維持されている。」(論点解説 新・会社法P29)ストレートに書いてあります。

 というわけで,立案担当者の見解では,払込金保管証明制度は,設立時発行株式の引受人だけの保護の規定だということです。設立された株式会社のためでなく,債権者のためでなくのように読めます。発起設立の場合には払込金保管証明制度はないのですから,そう説明せざるを得ないということでしょうか。前二者は,払込取扱銀行等の規制で賄っているということになりますね。

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小野茶

平成2年の商法改正 寄り道ですが・・・発起人の員数 [会社法いろいろ]

 発起設立と募集設立についての稿なのですが,平成2年の商法改正にふれるので,見ていたら,書く気になりました。寄り道ですが・・・。

平成2年の商法改正は,重要な事項の改正をいくつも行っているのですが,第一に思い出すのは,株式会社における発起人の員数の規制の撤廃でしょうか。それまで,株式会社の設立には,7人以上の発起人を要するものとされていました。発起人は,必ず,株主になりますから,株式会社の設立当初は,株主は,最低7人(発起設立)か8人(募集設立)でした。この規制を撤廃して,現在のように,発起人は,1人で構わないとしました。これによって,会社の設立の当初から,株式会社において,一人会社が認められるようになったのでした。

発起人について,一定の員数を要求したのは,株式会社の設立の確実を期すためで,7人以上としたのは,そのための適当な数がそのあたりということでしょうね(「7人の侍」ですね)。では,その規制の撤廃の理由はどこにあったのでしょうか。立法担当官は,次のように書かれています(大谷禎男著「改正会社法」P33)。

「しかし,わが国の株式会社の多くは,個人企業の法人成りの形で設立されており,この場合に,企業主は,通常,法人成りを機に他人の参加を得て共同企業としたいとの意図を持っているわけではない。会社が企業分割的な子会社の設立を企図する場合も同様である。このような会社設立の実態に照らすと,旧法165条は,多くの場合に,建前を整えるためだけの操作を強要していたことになる。
しかも,発起人の員数の規制は,名目的な発起人を用意することによって容易に満たすことが可能であり,したがって規制としての実質的な機能はほとんどなく,かえって法律を軽視する風潮を助長しかねない。また,名目的な発起人が置かれる結果,後に発起人の責任追及や権利の帰属をめぐる無益な法律紛争を惹起するというような弊害もある。」
これに続けて,「会社債権者の保護は,発起人の員数の規制によるよりも,相当額の危険資本の拠出の確保と発起人および最初の取締役の責任の強化,さらには会社財産の個人財産との分別管理の徹底によって賄う方が合理的である。」と書かれています。

横道にそれました。次回は,発起設立に関する平成2年商法改正についてです。


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仕事場の庭

発起設立と募集設立 その1 [会社法いろいろ]

 今を去ること何年前になるでしょうか。平成15年10月22日に法制審議会会社法(現代化関係)部会は,会社法制の現代化に関する要綱試案を発表しました。それから,かなり早い時期だったと思いますが,説明会が開催されたので聞きに行きました。どこであったのか,はっきりとした記憶がありません。平成2年の商法改正以来,改正に係る法制審議会部会長や立法担当官による説明会や講演会,パネルディスカッション等できるかぎり聞きに出かけて行くようにしていたのですが,会場がいろいろなところであったため,どこの会場だったか,情けないことに,特定できません(九段会館?)。もっとも,会場はどこでもいいのですが,壇上に立たれたのは,江頭先生であったという記憶は,はっきりしています。それまで,法制審議会の部会長として登場されるのが前田先生だったのですが,そのときから,前田先生から江頭先生に代わって,初めての説明会だったと思います。

 会社法制の現代化に関する要綱試案では,驚くことがたくさんありました。その中の一つが,株式会社の設立手続の方法を一本化し,発起設立だけにするというものでした。次のとおりです。

第四部 株式会社・有限会社関係 第二 設立等関係 3 募集設立 「株式会社の設立手続のうち募集設立という方法を廃止し,発起設立に一本化するものとする。」

今,この要綱試案を読み返してみれば,確かに(注)があって,(注)「募集設立を廃止することに伴い,発起設立手続に関して見直すべき点があるかどうかについて,実務上のニーズを踏まえ,なお検討する。」とあります。この(注)により,会社法は,募集設立を存続させたのでした。

 私は,この説明会の後,講義で何度か,商法が改正されれば,発起設立だけになりますと話したことがあります。今頃何を言っているか・・・ですが,取り消さなければなりませんね。しかし,説明会の時以後,ずっと,新しい会社法では,発起設立しかないと思い込んでいましたから。だから,講義で,商法が改正されれば,株式会社の設立手続の勉強は簡単になりますねと言ったのでした。

 ところが,会社法は,募集設立の手続を存続させたのでした。では,法制審議会は,なぜ,発起設立一本化の方針を立てたのでしょうか。平成2年の商法改正にさかのぼります。次回です。

 受験勉強に直結しないかもしれませんが,へ~昔はそうだったんだという感じで読んでもらえばいいと思います。それによって,現在がどうかきちんと記憶にとどまるのではないでしょうか。また,本職になってから,制度改正を考えるときに,もしや役に立つかもしれません。


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常盤公園内 翡翠葛 (ヒスイカズラ)


Check Test 会社法300の解説 [会社法いろいろ]

昨日の司法書士試験受験生のためのCheck Test 会社法の解説です。

司法書士試験受験生のためのCheck Test 会社法300.株式交換完全子会社の株主及び債権者は,株式交換完全子会社に対して,その営業時間内は,いつでも,株式交換契約に関する書面等の閲覧等の請求をすることができる。○か×か。

解答 ×です。
条文を見ればすぐわかるのですが(条文見たうえで,新株予約権者を○でぐるぐるぐるです),株式交換契約に関する書面等の閲覧等の請求をすることができるのは,「株主及び新株予約権者」となっています。どう書いてあるかというと,「消滅株式会社等の株主及び債権者(株式交換完全子会社にあっては,株主及び新株予約権者)」となっています(会社法782条3項本文)。合併の場合の消滅会社,会社分割の場合の分割会社と異なるのですね。
どうしてかですね。会社法では,理由も一緒に覚えないと覚えきれない事柄がたくさんです。ここはどうでしょうか。そのまま覚えられる人はそれでいいのでしょうが・・・。

株式交換完全子会社の新株予約権者以外の債権者には株式交換契約に関する書面等の閲覧等をさせる必要なんかないということですね。それは,株式交換完全子会社の新株予約権者以外の債権者は,株式交換によって,害されることはないからです。株式交換完全子会社では,株主の変更が生ずるにすぎない。
新株予約権者は,自分の有する新株予約権がどう取り扱われるかについて利害関係を有します。

では,株式交換完全子会社の債権者保護手続はどうなっているかですが,会社法789条1項3号です。株式交換完全子会社の株式交換契約新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権である場合には,新株予約権付社債についての社債権者は,株式交換完全子会社に対して,株式交換について異議を述べることができるとして債権者保護手続の対象となることとされています。これは,株式交換完全子会社の新株予約権付社債の社債権者にとっては,債務者の変更となるからです。

組織再編行為の当事会社のネーミング [会社法いろいろ]

まず,合併からです(括弧内は定義付けがされているところです)。吸収合併消滅株式会社(会社法749条1項2号),吸収合併消滅持分会社(同),吸収合併存続株式会社(同1号),吸収合併存続持分会社(会社法751条1項1号),新設合併消滅株式会社(会社法753条1項6号),新設合併消滅持分会社(同),新設合併設立株式会社(同2号),新設合併設立持分会社(同)です。もちろん,吸収合併消滅会社とか吸収合併存続会社という概念設定もされていますが,ここでは省略します。

会社分割です。吸収分割株式会社(会社法758条2号),吸収分割合同会社(会社法793条2項),吸収分割承継株式会社(会社法758条1号),吸収分割承継持分会社(会社法760条1号),新設分割株式会社(会社法763条5号),新設分割合同会社(会社法813条2項),新設分割設立株式会社(会社法763条1号),新設分割設立持分会社(会社法765条1項1号)です。吸収合併消滅持分会社はありますが,吸収分割持分会社新設分割持分会社は規定がありません(用語として使えない,合名会社,合資会社まで入ってしまうから)。新設分割設立持分会社はありますね。どうしてかは,当事会社がきちんと理解できていれば,わかると思います。

株式交換・株式移転です。ここは,株式交換と株式移転を分けましょう。まず,株式交換です。株式交換完全親株式会社(会社法768条1項1号),株式交換完全親合同会社(会社法770条1項1号),株式交換完全子会社(会社法768条1項1号)です。株式交換完全子会社となっていて,株式交換完全子持分会社の概念設定はもちろんのこと,株式交換完全子株式会社というのもありません。株式交換とは何かがわかっていれば,前者はありえないし,後者は,わざわざ株式会社にするまでもないということになります。
株式移転はどうか。株式移転設立完全親会社(会社法773条1項1号),株式移転完全子会社(会社法773条1項5号)です。株式会社だけだから,あえて株式移転設立完全親株式会社,株式移転完全子株式会社という必要はないからですね。

さて,定義付けはないのですが,会社法804条3項に株式移転設立完全親株式会社という語句があるのです。何か意味があるのか,ここでは必要であるのか,誰かが書いているかもしれませんね。もし,誰かご存じであれば,教えてください。「体系書 会社法 下巻」の校正中なのですが,どうしようと迷っているところです。株式等とつながるから修辞上の問題でしょうか?

条文は,打ち間違いをしているかもしれません。また,確認しますが,気が付いたら教えてください。

         オゴオリザクラ

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無記名社債権者の議決権の行使 [会社法いろいろ]

司法書士試験受験生のためのCheck Test 会社法230は,議決権を行使しようとする無記名社債の社債権者は,社債権者集会の日の1週間前までに,その社債券を供託しなければならない。○か×か。でした。解答は,×ですね。https://twitter.com/ueda_m

間違っているところは2文字なので注意しなければなりません。「供託」ではなく,「提示」です。供託までしなくても提示で足りるということです。旧商法が供託としていたのを会社法が提示で足りるとしたわけです。無記名社債とは,どういうものか,くどいほど書きましたから,もういいと思いますが,ともかく,社債発行会社・社債管理者は,社債権者の氏名又は名称及び住所を知りません。社債原簿と照合するというわけには行きません。しかも,わが国では,ほとんどが無記名社債です。

この改正案(要綱案)の説明会だったと思うのですが・・・江頭先生の説明だったか,はたまた立案担当者の説明だったか・・・ほかの方だったか(多分江頭先生,九段会館で,と思うのですが記憶間違いかもしれません),次のような話をされました。社債権者集会を開くのは,大変である。というのは,証券会社が保護預かりをしているものについて,証券会社の社員が大量の社債券を供託所に運搬しなければならないのでそれはそれは大変だと・・・。聞きながら頭の中に汗をふきふき車に社債券を運び込む証券会社の社員の姿を思い浮かべました。もちろんコストもかかっていたはずです。これを会社法は,提示で足りるとして合理化しました。何年か経って,証券会社で社債券を供託所に運んだことのある人が,社債権者集会が開催されるときに,担当の後輩達に,昔は大変だったよ・・・という話をするかもしれません。

条文です。会社法723条2項「議決権を行使しようとする無記名社債の社債権者は,社債権者集会の日の1週間前までに,その社債券を招集者に提示しなければならない。」

司法書士試験受験生のためのCheck Test 会社法の解説 [会社法いろいろ]

今日は,twitterの司法書士試験受験生のためのCheck Test 会社法の解説です(昨日の問題です)。

まず,司法書士試験受験生のためのCheck Test 会社法216.会社は,定款で,社債原簿管理人を定め,当該事務を行うことを委託することができる。○か×か。

解答 ×です。どこが×かというと,「定款で」の部分が×ですね。株主名簿管理人の場合には,定款の相対的記載・記録事項です(会社法123条)。これに対して,社債原簿管理人は,定款の相対的記載・記録事項とはされていませんから,定款で定める必要はありません。理論的な説明としては,株主と直接関わらないことからというのですが(近藤光男「最新株式会社法」P350),これによって機動的に社債原簿管理人を定めることができ,社債を機動的に発行することができます。また,社債の種類によって社債原簿管理人を定めたり,定めなかったり,社債の種類ごとに社債原簿管理人を定めることができるということになります。







募集社債の打切り発行の原則 [会社法いろいろ]

 司法書士試験受験生のためのCheck Test 会社法212.社債の応募額が社債の総額に達しないときは,社債全部が不成立となるが,募集事項として定めれば,社債の応募額の限度で社債を発行することができる。○か×か。 正解は,×です。 正解を○だと考えた方も多いのではないでしょうか。

 今日は,この問題の解説です。条文は,どこを見ればよいかというと,会社法676条11号です。会社法676条は,募集社債の募集事項を定めているのですが,11号は,定めるべき募集事項として「一定の日までに募集社債の総額について割当てを受ける旨を定めていない場合において,募集社債の全部を発行しないこととするときは,その旨及びその一定の日」としています。この条文は,打切り発行を原則とするよと言っているのです。もし,打切り発行にしない(つまり,応募額が社債の総額に達しないときは,全部について発行しない(社債不成立)とするのであれば),それを募集事項で定めなさいね,と言っているわけで,募集事項で定めていないのであれば,応募額で社債は成立するからね,というわけです。わかりにくい条文だと思いますが,これは,旧商法が逆であったことを知る者にとっては,そうかなるほどという箇所です。つまり,旧商法時代には,打切り発行とするためには,社債申込証の用紙にその旨を記載する必要があったのです。記載していなければ,応募額が社債の総額に達しないときは社債全部が不成立となっていたのです。このような取扱いは,理論的根拠に乏しいではないかということと,募集株式の発行とのバランスから,打切り発行が原則とされたものです。

会社分割の場合の分割会社及び承継会社の株主,種類株主保護の問題 [会社法いろいろ]

 会社分割の場合です。ここでは,会社法では,物的分割だけなんだ,人的分割に当たるものは廃止されたんだということが大事です(会社法758条4号の柱書の吸収分割会社に対してのところを赤鉛筆で囲んでおく,763条6号,8号柱書の新設分割会社に対してもそうです)。物的分割は,分割対価を分割会社に交付するもので,人的分割は,分割会社の株主・社員に交付するというものです。

 合併の消滅会社に当たるのが,分割会社であるわけですが,分割会社の株主,種類株主の保護のための株主総会,種類株主総会の特殊決議に関する規定がありません。どうしてか,分割対価は,株主ではなく,分割会社に交付されるからというのがその理由です。そこで,分割会社において,吸収分割契約の株主総会における承認決議は,常に,特別決議ということになります。

 では,分割承継会社の方はどうでしょうか。分割承継会社は,合併の存続会社に当たるものです。問題は,持株比率ですね。影響を受けることがありますね。まず,種類株主総会の特別決議から。「吸収分割承継株式会社が種類株式発行会社である場合において,吸収分割会社に対して吸収分割承継株式会社のある種類の株式を交付する場合に,その種類の株式が譲渡制限株式であって,定款で当該種類株式の募集について種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがないものについては,その種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が2以上ある場合にあっては,当該2以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)の特別決議がなければ,その効力を生じない(会社法795条4項,324条2項6号)。ただし,当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主が存しない場合は,この決議は不要である(会社法795条4項ただし書)。」
 株主総会については,もともと特別決議ですが,略式分割及び簡易分割を認めないということで分割承継会社において株主総会の特別決議を要するとするわけです。すなわち,「吸収分割会社に対して交付する金銭等の全部又は一部が吸収分割承継株式会社の譲渡制限株式である場合であって,吸収分割承継株式会社が公開会社でないときは,略式分割は認められない(会社法796条ただし書)。吸収分割会社に対して交付する金銭等の全部又は一部が吸収分割承継株式会社の譲渡制限株式である場合であって,吸収分割承継株式会社が公開会社でないときは,簡易分割は認められない(会社法796条3項柱書のただし書)」。




株式交換における株主総会・種類株主総会の特殊決議,種類株主総会の特別決議 [会社法いろいろ]

くどいようですが,株式交換です。

(1)株式交換完全子会社の株主総会,種類株主総会の特殊決議です。株式交換完全子会社は,合併の消滅会社に当たるものですね(解散はしませんが)。

(ア) 単一株式発行会社
 株式交換完全子会社が公開会社であり,かつ,当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合には,株主総会の特殊決議を要する(会社法309条3項2号)。これは,合併と同様,株式交換により譲渡性の低い対価を交付される株主の保護を図るためです(商事法務№1753 P39参照)。

(イ) 種類株式発行会社
 株式交換完全子会社が種類株式発行会社である場合において,株式交換対価の全部又は一部が譲渡制限株式等であるときは,当該株式交換は,当該譲渡制限株式等の割当てを受ける種類の株式(譲渡制限株式を除く)の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が2以上ある場合にあっては,当該2以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)の特殊決議がなければ,その効力を生じない(会社法783条3項本文,324条3項2号)。株式交換により譲渡性の低い対価を交付される種類株主の保護ですね。

(2) 株式交換完全親株式会社 合併における存続会社に当たります。

(ア) 単一株式発行会社
 特別決議。略式交換及び簡易交換は認めないとしています。株式会社交換完全親株式会社が特別支配会社であっても,株式交換対価の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合であって,株式交換完全子会社が公開会社であり,かつ,種類株式発行会社でないときは,株主総会の決議を省略することはできない(会社法784条1項ただし書)。なお,株式交換完全子会社が株式交換完全親株式会社の特別支配会社である場合について,会社法796条1項ただし書参照です。簡易交換は,会社法796条3項柱書のただし書参照です。

(イ) 種類株式発行会社
 株式交換完全親株式会社が種類株式発行会社である場合において,株式交換完全子会社の株主に対して株式交換完全親株式会社のある種類の株式を交付する場合に,株式交換は,その種類の株式が譲渡制限株式であって,定款で当該種類株式の募集について種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがないものについては,その種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が2以上ある場合にあっては,当該2以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)の特別決議がなければ,その効力を生じない(会社法795条4項3号,324条2項6号)。

新設合併における・・・ [会社法いろいろ]

 昨日まで,吸収合併における株主総会・種類株主総会の特殊決議,特別決議を問題にしてきましたが,新設合併もやっておかないと,なんとなく落ち着かない(?終わった感じがしない?)という気になったので,新設合併です。

 新設合併だから,存続会社の株主の保護なんて問題はないから,楽ですね。

 消滅する単一株式発行会社の株主保護・・・譲渡性の低い株式を取得することになるという問題ですね。従って特殊決議です。どのような場合に特殊決議か?会社法309条3項3号です。3項は,特殊決議です(同条同項柱書参照のこと)。条文は,第804条第1項の株主総会(合併又は株式移転をする株式会社が公開会社であり,かつ,当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合における当該株主総会に限る)・・・まわりくどいな・・・ストレートに書いてもいいだろうに・・・つまり,新設合併の場合には,新設合併消滅株式会社が公開会社であり,かつ,当該株式会社の株主に対して交付する合併対価が譲渡制限株式等であるときは,株主総会の特殊決議がいるよとなっています。

種類株式発行会社の(種類)株主保護・・・譲渡性の低い株式を・・・というのは同じですね。だから,特殊決議です。また,まわりくどい括弧書がありますが,会社法324条3項2号,804条3項です。新設合併の場合・・・「体系書 会社法 下巻」の原稿からひっぱってきますね。
 「新設合併消滅株式会社が種類株式発行会社である場合において,合併対価の全部又は一部が譲渡制限株式等であるときは,当該新設合併は,当該譲渡制限株式等の割当てを受ける種類の株式(譲渡制限株式を除く)の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が2以上ある場合にあっては,当該2以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)の特殊決議がなければ,その効力を生じない(会社法804条3項本文,324条3項2号)。この場合にも,譲渡制限株式でない種類の株式の種類株主が譲渡制限株式等を取得することになり,保護を要するからである。当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主が存しない場合は,この決議は不要である(会社法804条3項ただし書)。」

 以上ですとしたいところですが,さきほど株式移転があったよな・・・株式交換・株式移転も書いておかなくてはならないのかな・・・もういいかな・・・しつこいかな・・・しつこいの嫌われるしな・・・などと頭を掠めたのでした。それから,会社分割がなかったな・・・んーーん。明日,明後日ですね。

合併における株主総会の特殊決議 [会社法いろいろ]

 合併において種類株主総会の特殊決議を要する場合,種類株主総会の特別決議を要する場合について書きましたが,今日は,単一株式発行会社についてはどうかです。

 その前に思い出しておきます。消滅会社と存続会社,誰をどのような理由で保護しているのか。特殊決議はどちらか,特別決議はどちらか。譲渡性が低くなる方が特殊決議ですね。譲渡制限を設定する場合と同じ考え方です。持株比率の低下は,特殊決議とするまでもないでしょうということで,特別決議です。

 では,単一株式発行会社です。したがって,株主総会になるわけですが,特殊決議は,さてどちらか。譲渡性の低下の方ですから,消滅会社となります。その説明です。

 「合併により消滅する株式会社が公開会社であり,かつ,当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が譲渡制限株式等であるときは,株主総会の特殊決議を要する(会社法309条3項2号)。これは,合併により譲渡性の低い対価を交付される株主の保護を図るためである(商事法務№1753 P39参照)。譲渡制限株式等とは,譲渡制限株式(会社法2条17号)又は取得条項付株式もしくは取得条項付新株予約権であって取得と引換えに譲渡制限株式が交付されるものをいう(施行規則186条)。吸収合併消滅株式会社が公開会社であり,吸収合併存続株式会社が非公開会社であるからといって,当然に吸収合併消滅会社の株主総会の決議が特殊決議となるものではない。「体系書 会社法 下巻」(近刊)から。

 では,単一株式発行会社が存続会社である場合の存続会社の株主保護は?持株比率の問題ですね。存続会社が非公開会社で消滅会社の株主に合併対価として存続会社の株式を交付する場合には,株主総会の特別決議を要する・・・あれれ,もともと特別決議ではないか・・・そうなのですが,この場合に,立法者は,略式合併も簡易合併もできないとして,必ず,株主総会の特別決議を要するものとしました(会社法796条1項ただし書,3項ただし書)。

 この機会に表を作って見てください。簡単にできると思います。キーワードを忘れないように。

合併における種類株主総会の特殊決議 [会社法いろいろ]

 吸収合併における消滅会社である乙株式会社がA種類株式(譲渡制限株式)とB種類株式を発行する種類株式発行会社である場合において,甲株式会社が非公開会社であり,甲株式会社の株式を合併対価とするときは,B種類株式の株主を構成員とする種類株主総会の特殊決議を要する。これは,正しい記述です。

 今回は,消滅会社(乙株式会社)の株主(B種類株式)の保護の問題です。前回,種類株式発行会社を問題としていましたから,今回も,種類株式発行会社とします。単一株式発行会社は,いずれまた。

 吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社である場合において,合併対価の全部又は一部が譲渡制限株式等であるときは,当該吸収合併は,当該譲渡制限株式等の割当てを受ける種類の株式(譲渡制限株式を除く)の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が2以上ある場合にあっては,当該2以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)の特殊決議がなければ,その効力を生じないとされています(会社法783条3項本文,324条3項2号)。これは,合併により譲渡性の低い対価を交付される種類株主の保護を図る必要があるからというのがその理由です。本問では,存続会社が非公開会社で,発行する株式の全部が譲渡制限株式ですから,合併対価が存続会社の株式ということであれば,消滅会社の株主は,譲渡制限株式を取得することになり,譲渡制限のない株式を有していたB種類株主は,譲渡制限のある株式を取得することになるわけです。
しかし,A種類株式は,もともと譲渡制限のある株式です。吸収合併消滅株式会社の種類株式が譲渡制限株式である場合(A種類株式)には,種類株主総会の決議は不要とされています(会社法783条3項本文括弧書)。もともと譲渡制限株式で譲渡性が低下するわけではないというのですね。なお,当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主が存しない場合にも,この決議は不要とされていますが(会社法783条3項ただし書),これは言うまでもないことですが,念のためというところでしょうか。
結局,このような問題は,存続会社の株主の保護が問題となっているのか,消滅会社の株主の保護が問題になっているのかを確認して,前者の場合には,持株比率の低下の問題,後者は,株式の譲渡性の低下の問題として理解しておきます。

 前者は,非公開会社の株主あるいは譲渡制限株式の株主は,持株比率の維持に重大な関心を有するからとか,持株比率が重要性を有するからとかいう理由で保護するのだといいますが,どういう意味か,また,いつか書くことにします。

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