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氏名又は商号の黙秘義務及び介入義務 [平成22年度司法書士試験筆記試験]

 氏名又は商号の黙秘義務及び介入義務(商法548条,549条)
 当事者がその氏名又は商号を相手方に示さないように命じたときは,仲立人は,これに従わなければならず,そこで,仲立人は,結約書及び仲立人日記帳の謄本にその氏名又は商号を記載することができません(商法548条)。

 商法548条の立法理由は,結約書及び仲立人日記帳に,各当事者の氏名又は商号を記載しなければならないとされていることから,当事者から黙秘を命じられたときの黙秘義務を明確にする必要があることにあります。さらに,黙秘義務の実用性についての立法理由として,コンメンタール商行為法(喜多先生執筆)P250は,「当事者は自己の氏名または商号を相手方に知らせないまま,仲立人をして交渉に当たらせることによって,取引を有利に導く場合がしばしばあるとともに,相手方にとっても没個性的な商取引の当事者がだれであるかを知る必要のない場合が多いことである(同説,松木105頁,石井52頁,服部=星川・基コ117頁(神崎執筆))。」としています。

 商法549条は,この黙秘義務に関連して,仲立人が当事者の一方の氏名又は商号をその相手方に示さなかったときは,相手方に対して,自ら履行をする責任を負わなければならないとしています。これを仲立人の介入義務といいます。仲立人は,契約の当事者ではありませんから,本来,履行の責任を負う者ではありませんが,「当事者の一方を匿名にして仲介をした結果について,相手方の信頼を裏切らないための担保責任」(上記書P252)として,責任を負います。そうでなければ,氏名又は商号を黙秘した一方当事者の相手方が信用してその様な取引に応じないということにもなりますから,このような担保責任は,このような制度の信用維持のためのものであると言えます。

 なお,商法548条の立法理由は,結約書及び仲立人日記帳に,各当事者の氏名又は商号を記載しなければならないとされていることから,当事者から黙秘を命じられたときの黙秘義務を明確にする必要があることにあると書きましたが,当事者から黙秘を命じられた場合に限定されません(条文参照)。また,匿名の当事者が媒介の委託者である場合だけでなく,相手方である場合も,仲立人は,介入義務を負います。

平成22年度司法書士試験 午前の部 第35問 オ 問屋は,委託者のためにした売買について,相手方がその債務を履行しない場合には,その履行をする責任を負うが,仲立人は,媒介した商行為について,当事者の一方の氏名又は商号を相手方に示さなかったときを除き,そのような責任は負わない。○