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問屋の権利 [平成22年度司法書士試験筆記試験]

 問屋の権利
 問屋は,一般的な権利として,報酬請求権(商法512条)及び費用に関する請求権(民法650条等)を有しますが,商法は,特則として,次の各権利について規定しています。

 留置権
 商法557条は,代理商の留置権に関する商法31条を準用しています。そこで,問屋は,委託者のために物品の販売又は買入れをしたことによって生じた債権(例えば,報酬請求権や費用償還請求権)の弁済期が到来しているときは,その弁済を受けるまでは,委託者のために問屋が占有する物又は有価証券を留置することができます(同条本文)。ただし,当事者が別段の意思表示をしたときは,このかぎりではありません(同ただし書)。
 商法521条に留置権の規定があるのにもかかわらず,どうして,このような規定があるのでしょうか。商法521条の留置権は,商人間だからです。商法521条だけであれば,委託者が商人でない場合に,問屋が保護されないからです。

 供託・競売権
 問屋が買入れの委託を受けた場合において,委託者が買い入れた物品を受け取ることを拒み,又はこれを受け取ることができないときは,問屋は,売買における売主の供託権・競売権に関する商法524条が準用されます(商法556条)。そこで,問屋は,その物を供託し,又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができます。この場合において,問屋がその物を供託し,又は競売に付したときは,遅滞なく,委託者に対してその旨の通知をしなければなりません。競売に付する場合には,原則として,相当の期間を定めて催告をしなければなりませんが,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は,催告をしないで競売に付することができます。競売に付したときは,問屋は,代価を供託しなければなりませんが,費用及び報酬に充当することは妨げられません。

 以上は,民法497条の特則です。商取引の敏活決済を目的とします。

 民法497条
 弁済の目的物が供託に適しないとき,又はその物について滅失もしくは損傷のおそれがあるときは,弁済者は,裁判所の許可を得て,これを競売に付し,その代金を供託することができる。その物の保存について過分の費用を要するときも,同様とする。

 介入権
 商法555条1項は,問屋が取引所の相場のある物品の販売又は買入れの委託を受けたときは,問屋は,自ら買主又は売主となることができますが(これを問屋の介入権といいます),この場合においては,売買の代価は,問屋が買主又は売主となることの通知を発した時における取引所の相場によって定めるものとしています。

 問屋が販売又は買入れを委託された物品の買主又は売主となることによって,委託者の目的は迅速に達成されることから,介入権が認められるのですが,しかし,この場合には,問屋と委託者の利益が相反し,委託者の利益が害されるおそれがあります。そこで,商法は,目的物が取引所の相場のある物品であること,その売買価格を委託者に対しその旨の通知を発した時の取引所の相場によるものとして,認めることにしました。

 問屋の介入権の行使によって,問屋と委託者の間に売買契約が成立することになるとともに,問屋は,委託を実行したことになりますから,問屋は,委託者に対して報酬を請求することができます(商法555条2項)。