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午前の部 第30問 エ [平成22年度司法書士試験筆記試験]

第30問 エ
取締役会における議決の要件は,定款で定めるところにより加重することができるが,監査役会における議決の要件は,定款で定めることにより加重することができない。

 正しい記述です。形式的理由(根拠)としては,取締役会については規定があるが,監査役会については規定がないということになります。つまり,取締役会については,定足数及び決議要件について会社法369条1項が規定しています。次のとおりです。

 会社法369条1項
 取締役会の決議は,議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)が出席し,その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)をもって行う。

 括弧書で加重することができることが明らかにされています。実質的理由は,取締役会の決議をより慎重に行わせることは,むしろ望ましいことであり,禁止する必要はないというところにあります(「体系書 会社法 上巻」P402)。

 これに対して,監査役会の決議については,会社法393条1項です。

会社法393条1項
監査役会の決議は,監査役の過半数をもって行う。

 定足数の定めがありませんね。現実に出席した監査役の数に関係なく,監査役全員の過半数ということになります。そして,取締役会の決議のような括弧書がありません。加重することができるかという問いに対しては,解釈としては,会社法369条1項のような括弧書がないからできないということになります。

 加重することができないということは,江頭先生も前田先生も,明文で書いてはおられません(江頭「株式会社法第3版」P493,前田「会社法入門第12版」P517)。そのほか,会社法というタイトルの本をいくつかみましたが,その中で,次の森本先生執筆のもの以外にありませんでした。
 会社法会社法コンメンタール8のP487~P488です。次のように書かれています。

 「株主総会(309ⅠⅡ等参照)や取締役会(369Ⅰ参照)の場合と異なり,定足数の定めはない。現実に出席している監査役の数いかんに関わりなく,監査役全員の過半数をもって決議が成立するのである。この決議要件の加重は認められないと解されるのであろう(29・412Ⅰ括弧書参照)。」29とあるのに気がつきましたか?形式的根拠ですね。

 では,お前はどう書いたのだ・・・です。はい。このように書いています(「体系書 会社法 上巻」P454)。
「監査役会の決議は,監査役の過半数をもって行う(会社法393条1項)。出席監査役の過半数ではない。定足数の定めはなく,現実に出席した監査役の数に関係なく,監査役全員の過半数である。」

 このように本文中に加重することができないと,きちんと書いていません。上記の森本先生の執筆部分を読んだ上で原稿を書いていますから,比較の表を作る際に定足数及び決議要件の比較として,下の写真のようにしました。

 さて,では,実質的理由(根拠)は何か。問題文を見て,解説をどう書けばよいのかなと考えていました。結局,取締役会が業務執行の意思決定をする機関であって,濫用のおそれもあり,意思決定を慎重にするために(歯止めのために),要件を加重することには合理性があるが,監査役会は,監査機関であるから,その意思決定を困難にすることは合理性がないと・・・。会計監査人の解任決議は別として,通常の監査役会の決議の要件が厳しくて(法律の規定よりも厳しくして),その意思が決定されないようであれば,監査役会を設けた意味は半減するではないか・・・ということではないかと思います。

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