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問屋の義務 [平成22年度司法書士試験筆記試験]

 問屋の義務
 問屋は,受任者として,善管注意義務を負い(民法644条),また,取得した物品又は代金を委託者に引き渡す義務を負いますが(民法646条),商法は,問屋の義務として,次の3個の義務について規定を置いています。

 通知義務
 問屋が委託者のために物品の販売又は買入れをしたときは,遅滞なく,委託者に対して,その旨の通知を発しなければならないとされています。代理商の通知義務に関する商法27条の準用です(商法557条)。民法では,これは,委任者の請求があったとき,及び委任が終了した後の報告義務となっていますが,問屋は,委託者の請求を待たずに通知を発すべき義務を負うとされています。これは,取引の迅速主義の要求及び委託者の便宜を図ることに基づきます(コンメンタール商行為法P313)。問屋は,通知を発すればよく,到達については責任を負いません。


 指値順守義務
 商法554条
 問屋カ委託者ノ指定シタル金額ヨリ廉価ニテ販売ヲ為シ又ハ高価ニテ買入ヲ為シタル場合ニ於テ自ラ其差額ヲ負担スルトキハ其販売又ハ買入ハ委託者ニ対シテ効力ヲ生ス

 売買価格について委託者が問屋に対して指定する場合もあり,また,問屋に一任することもあります。前者が指値売買(さしねばいばい)であり,後者が成行売買(なりゆきばいばい)です。指値は,通常,委託販売のときは最低価格を,委託買入のときは最高価格とされます。指値売買のときには,問屋は,当然,その指値を順守する義務を負うわけですが,問屋がその指値を順守せず,指値より安く売り,あるいは高く買った場合には,委託者は,委託に反するものとして,委託者に対して効力が生ずることを否定することができます。もっとも,問屋がその差額を負担するのであれば,委託者にとって利益が別段害されることはないということで,その販売又は買入れは委託者に対して効力を生ずるとされています。これが商法554条です。

 履行担保義務(責任)
 商法553条
 問屋ハ委託者ノ為ニ為シタル販売又ハ買入ニ付キ相手方カ其債務ヲ履行セサル場合ニ於テ自ラ其履行ヲ為ス責ニ任ス但別段ノ意思表示又ハ慣習アルトキハ此限ニ在ラス

 問屋は,反対の特約又は慣習のない限り,委託者のためにした販売又は買入れについて,相手方がその債務を履行しない場合には,自らその履行をする責任をおうとされています(商法533条)。この問屋の履行担保義務は,委託者を保護するものですが,このように法が問屋に責任を負わせることによって,問屋制度の信用を維持しようとするものです(このような責任を認めると利用者は安心して問屋を利用することができることになります)。したがって,この問屋の責任は,無過失責任であると解されます。

 平成22年度司法書士試験 午前の部 第35問
 オ 問屋は,委託者のためにした売買について,相手方がその債務を履行しない場合には,その履行をする責任を負うが,仲立人は,媒介した商行為について,当事者の一方の氏名又は商号を相手方に示さなかったときを除き,そのような責任は負わない。○


 エ 問屋は,委託者のためにした売買契約が成立した場合には,各当事者の氏名又は商号,行為の年月日及び契約の要領を記載した書面を作成し,署名し,又は記名押印した後に,その書面を委託者に交付する義務を負うが,仲立人は,媒介する商行為が成立した場合でも,そのような義務は負わない。×
 問屋と仲立人が逆です。そもそも,1行目の問屋の記述に関して,各当事者のという表現がおかしいですね。