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任意後見制度 その8 [後見制度]

任意後見人の後見事務の内容

 任意後見人の後見事務の内容は,任意後見契約の委任者(本人)の具体的必要性に応じて,任意後見契約で定められ(代理権目録),任意後見人受任者又は任意後見人の代理権の範囲として登記されています(後見登記等に関する法律…以下5条4号)。

 「代理権」の範囲ですから,法律行為の代理です。法律行為の対立概念として事実行為がありますが,事実行為は含まれません。例えば,介護等の事実行為は,任意後見人の後見事務ではありません。もっとも,法律行為の遂行に必要不可欠な付随的事実行為は含まれると解されています(民事月報Vol.54.12 P34参照)。例えば,施設入所契約を締結する前の段階として,当該施設を本人と一緒に見学に行くことは,後見事務に含まれると解されています。

委任者から授権される法律行為は,2つに分類することができます。一つは,財産管理に関する法律行為,もう一つは,身上監護(生活又は療養看護)に関する法律行為です。財産管理に関する法律行為としては,例えば,預貯金の管理・払戻し,不動産その他の重要な財産の処分,遺産分割,賃貸借契約の締結・解除等があります。身上監護に関する法律行為としては,介護契約,施設入所契約,医療契約の締結等があります。

 任意後見人が財産管理に関する法律行為として最も頻繁にすることは,預貯金の管理・払戻しであることは,容易に推測することができます。介護費用や入院・手術等の医療費が多額であるときは,不動産の処分ということもありますね。施設に継続的に入所ということになると,これまで住んできた家屋を賃貸するとか,賃借してきた家屋の賃貸借契約を解除するとかいうことも生じます。法定後見等の場合と異なり(民法859条の3,876条の5第2項,876条の10第1項),居住用不動産の処分についても,家庭裁判所の許可は不要です。なお,不動産の処分について登記の申請も代理権付与の対象となると解されていて,代理権があるときは,実務上,任意後見登記の登記事項証明書が任意後見人の代理権限証明書となるとされています(H15.2.27民事二課長通知)。

 任意後見人がする身上監護に関する法律行為について,LS東京 山崎政俊さんは,「福祉サービス利用契約(介護サービス,配食サービス,施設入所契約等)の締結・変更・解除及び費用の支払いは,任意後見人が行う身上監護に関する事務の中心的なものである。」とされ,福祉サービスの利用に関しては,いわゆる ① 見守り活動(本人を定期的に訪問することによって,本人の生活及び身体状況を確認すること。たとえば,入所施設内での処遇の監視等),および, ② アドボカシー活動(本人の身上面に関する利益の主張をしたり,あるいは代弁したりすること。たとえば,入所施設内での処遇の改善を施設に申し入れる等)が重要になるとされています(講義レジュメP5)。