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買主の目的物の保管・供託義務 [商法総則・商行為法]

 買主の目的物の保管・供託義務

 今回で商事売買は,一応,終了です。どうして,商法総則・商行為法について書いているかというと,昨年・今年と商法総則・商行為法と出題が 続いたことから,来年度も出題があるかもしれない,まるで勉強していない人も多いだろうから,今のうちに,一度だけでも目にしていれば,しばらくして,やはり,商法総則・商行為法を勉強しておいた方がいいなと思った人にとって,少しは楽だろうとおもったことにあります。

 今,少し,時間をとって,このブログでも読んでおけば,気がついたことをメモでもしておけば,ひょっとしたら,役立つかもしれないと思い,書いています。ありときりぎりすのありの応援です。

 と同時に,これは,商法の択一問題集の商行為法の部の準備でもあります。書いていくことによって,忘れていたことを思い出し,もう一度記憶として定着させるため私自身が確認をしていっています。

 さて,商事売買の最終回,買主の目的物の保管・供託義務です。
条文からです。

 (買主による目的物の保管及び供託)
 商法527条  前条第1項に規定する場合においては、買主は、契約の解除をしたときであっても、売主の費用をもって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならない。ただし、その物について滅失又は損傷のおそれがあるときは、裁判所の許可を得てその物を競売に付し、かつ、その代価を保管し、又は供託しなければならない。
2  前項ただし書の許可に係る事件は、同項の売買の目的物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
3  第1項の規定により買主が売買の目的物を競売に付したときは、遅滞なく、売主に対してその旨の通知を発しなければならない。
4  前3項の規定は、売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内にある場合には、適用しない。

 商法528条  前条の規定は、売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合における当該売主から買主に引き渡した物品及び売主から買主に引き渡した物品の数量が注文した数量を超過した場合における当該超過した部分の数量の物品について準用する。

 (解除の効果)
 民法545条  当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2  前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3  解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

 民法の規定によれば,売買の目的物の瑕疵又は数量不足によって売買契約が解除された場合には,買主に原状回復義務を負い,目的物の返還義務があるだけで(民法545条),保管したり供託したりする義務は負わされていません。
 しかし,これを商人間の隔地売買に適用すると,売主にとってみれば,その目的物を放置される危険があるし,また,目的物の所在地で売却した方が有利なことが多いからです(返還となると返還費用を負担するだけでなく,このような売却の機会を失うことになります)。

 そこで,商法は,民法の原則を修正して,商人間の隔地売買において,買主が検査通知義務を履行して、目的物の瑕疵又は数量不足を理由に契約の解除をしたときは,買主は,売主の費用をもって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならないとし,ただし、その物について滅失又は損傷のおそれがあるときは、裁判所の許可を得てその物を競売に付し、かつ、その代価を保管し、又は供託しなければならないとしたわけです(商法527条1項,4項)。なお,買主が売買の目的物を競売に付したときは,遅滞なく,売主に対してその旨の通知を発しなければなりません(同条3項)。
また,売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合における当該売主から買主に引き渡した物品及び売主から買主に引き渡した物品の数量が注文した数量を超過した場合にも,当該超過した部分の数量の物品についても,同様に,保管又は供託する義務を負うものとされています(商法528条)。

 これまで,商人間の隔地売買という限定をして書いてきましたが,どこからそんなことが出てくるのかと言われそうです。商法527条4項です。
 商法527条4項は,「前3項の規定は、売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内にある場合には、適用しない。」としています。つまり,逆にいえば,「売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内にないこと」が保管義務・供託義務の要件であるということになります。これは,売主の営業所(営業所がない場合にあっては,その住所)が目的物の所在地にない場合には,売主が直ちに適当な処置をとることができないことを理由に保管又は供託義務を課したということを意味します。したがって,両当事者の営業所が同一の市町村の区域内にあっても,売主が買主の指定した他地に目的物を送付した場合にも,買主の保管又は供託義務が認められると解されています(通説)。結局,隔地売買が要件となるというわけです。