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最判平成20年2月26日  [平成22年度司法書士試験筆記試験]

 今年の司法書士試験の商法の解説を書いたのですが,今,条文が間違っていないか,打ち間違いがないか,文章がおかしくないか等々,見直しをしています。昨日,見たところで,ここはブログに書いておこうと思った箇所があります。

 さきほど,再録シリーズの一つを載せたものの,思い立ったら,忘れないうちにこの箇所について書かなければならないと思い,書き始め,以下と変更することにしました。

 今年の司法書士試験の商法の部で,久しぶりに,判例を問う問題が出題されました。憲法,民法,刑法,民訴では,判例の趣旨に照らし・・・というのは珍しいことではありませんが,商法では,珍しいものです。しかも,最近の判例についても問われました。午前の部第34問です。

第34問 会社法上の訴えに関する次のアからオまでの記述のうち,判例の趣旨に照らして誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア 株主は,募集に係る株式の発行がそれを差し止める旨の仮処分命令に違反してされた場合には,当該仮  処分命令に違反することを無効原因として,新株発行の無効の訴えを提起することはできない。
イ 株主は,株主総会の決議の取消しの訴えを提起した場合において,当該株主総会の決議の日から3か月が 経過したときは,新たな取消し事由を追加主張することはできない。
ウ 株主は,退任後もなお役員としての権利義務を有する者については,その者が職務の執行に関し不正の行為をした場合であっても解任の訴えを提起することはできない。
エ 株主は,募集に係る株式の発行がされた後は,当該株式の発行に関する株主総会の決議の無効確認の  訴えを提起することはできない。
オ 株主は,他の株主に対する株主総会の招集手続の瑕疵を理由として,株主総会の決議の取消しの訴えを 提起することはできない。


いずれも,判例があるのですが,最近の判例を問うを取り上げます。最判平成20年2月26日です。

 この判決で注目するのは,会社法346条1項に基づき退任後もなお会社の役員としての権利医務を有する者を役員権利義務者と名付けている点ですが,この判決の結論は,問題文ウのとおり,解任の訴えを提起すること,つまり,解任請求をすることは許されないとするものです(ウは正しい記述ということになります)。

最判平成20年2月26日 民集第62巻2号638頁です。

 まず,結論として,「会社法346条1項に基づき退任後もなお会社の役員としての権利義務を有する者(以下「役員権利義務者」という。)の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実(以下「不正行為等」という。)があった場合において,同法854条を適用又は類推適用して株主が訴えをもって当該役員権利義務者の解任請求をすることは,許されないと解するのが相当である。」としています。

次に理由です。形式的理由(条文上の根拠)です。 「同条は,解任請求の対象につき,単に役員と規定しており,役員権利義務者を含む旨を規定していない。」ことを挙げています。そして,実質的理由として,「同法346条2項は,裁判所は必要があると認めるときは利害関係人の申立てにより一時役員の職務を行うべき者(以下「仮役員」という。)を選任することができると定めているところ,役員権利義務者に不正行為等があり,役員を新たに選任することができない場合には,株主は,必要があると認めるときに該当するものとして,仮役員の選任を申し立てることができると解される。そして,同条1項は,役員権利義務者は新たに選任された役員が就任するまで役員としての権利義務を有すると定めているところ,新たに選任された役員には仮役員を含むものとしているから,役員権利義務者について解任請求の制度が設けられていなくても,株主は,仮役員の選任を申し立てることにより,役員権利義務者の地位を失わせることができる。」としています。