SSブログ

売主の供託権・自助売却権 商法524条 [商法総則・商行為法]

 売主の供託権・自助売却権 商法524条

 民法494条 債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。

 民法497条 弁済の目的物が供託に適しないとき、又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるときは、弁済者は、裁判所の許可を得て、これを競売に付し、その代金を供託することができる。その物の保存について過分の費用を要するときも、同様とする。
民法495条3項
前条の規定により供託をした者は,遅滞なく,債権者に供託の通知をしなければならない。

 商法524条  商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、売主は、その物を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができる。この場合において、売主がその物を供託し、又は競売に付したときは、遅滞なく、買主に対してその旨の通知を発しなければならない。
2  損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、前項の催告をしないで競売に付することができる。
3  前2項の規定により売買の目的物を競売に付したときは、売主は、その代価を供託しなければならない。ただし、その代価の全部又は一部を代金に充当することを妨げない。

 売主の供託権
商法524条1項前段は,商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、売主は、その物を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができるとしていますが,この商人間の売買に関する売主の供託権については,民法の弁済供託に大きな修正は加えられてはいません。民法は,債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができるとしているからです。されているからです(民法494条)。

商事売買における売主の供託に関する負担の軽減としては,供託の通知について発信主義がとられている点があります(民法495条3項と商法524条後段)。

 売主の自助売却権
 ここでいう売主の自助売却権とは,商人間の売買において,買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、売主は、相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができます(商法524条1項前段)。もっとも,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、催告をしないで競売に付することができます(同条2項)。 これを売主の自助売却権といいます。
  以上により,売買の目的物を競売に付したときは,売主は,その代価を供託しなければならないとされますが(同条3項本文),しかし,その代価の全部又は一部を代金に充当することができるとされています(同ただし書)。

 民法においても,弁済者の自助売却権が認められています。しかし,民法では,自助売却権は,弁済の目的物が供託に適しないとき、又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるとき、その物の保存について過分の費用を要するときに限定されています。それだけでなく。裁判所の許可を要することとされています。加えて,競売による売却代金は,必ず供託しなければならず,債務に充当することはできないことになっています。

 このような民法の規定は,売主の立場からして,迅速性に欠け,目的物の価格の変動が激しいことが想定される商事売買では,売主の利益が十分に保護されません。そこで,商人間の売買においては(なお,双方の当事者にとって商行為であることを要するとするのが通説です),買主の受領拒絶又は受領不能があれば,売主は,目的物を供託することができるだけでなく,裁判所の許可を要することなく,常に,直ちに競売することができ,さらに,その競売による売却代金(代価)の全部又は一部を売買代金債務に充当することができることとしたものです。