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定期売買 商法525条 [商法総則・商行為法]

 定期売買 商法525条

 商法525条(定期売買の履行遅滞による解除)は,民法542条(定期行為の履行遅滞による解除権)の特則(特例)です。条文を並べます。比較です。


 民法542条  契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。

 商法525条  商人間の売買において、売買の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、直ちにその履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみなす。

 定期売買とは,契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達しないものをいいます。性質上の定期売買の例として,書中見舞いとして得意先に配布する目的でした大量のうちわの売買(大判T9.11.15)輸出用のクリスマス用品の売買(大判S17.4.4),暦の売買(大阪区判T7.5.15)等があります。

 民法の一般原則によれば,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができるとされます(民法542条)。

 これに対して,商事売買においては,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、直ちにその履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみなすとされ(商法525条),解除の意思表示をすることなく,時期の経過とともに,当然に解除の結果を生ずることになります。

 商法525条は,商事売買取引の迅速な処理を図るとともに売主の保護を図ることを目的としています。時期の経過とともに当然に解除されたものとみなされるのですから,迅速な処理ということは,明白ですが,では,どこが売主の保護なのでしょうか?

 売主の目から見ます。民法の規定によれば,売主が履行をしないで,その時期を経過したときは,買主は,催告をすることなく,直ちにその契約の解除をすることができる・・・解除の効果を生ずるためには,売主の解除の意思表示が必要です。ということは,買主は,解除をせずに請求するか,解除をするか選択できることになります。そうすると,買主は,目的物の価格の騰落によって,投機を行うことが可能となります。買主は,売主の危険において目的物の価格が急騰すれば,履行の請求をし,急落すれば,契約を解除するということができます。このような不安定な地位に立たされないようにするためには,相当の期間を定めてその期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をしなければなりません(民法547条)。商法525条は,売主がそのような立場に立たされることから救うことになります。

 ところで,平成17年の商法525条の改正は,単なる口語化にとどまるものではなく,実質的な改正といってもよい改正が行われました。

 旧商法525条は,次のようになっていました。
売買ノ性質又ハ当事者ノ意思表示ニ依リ一定ノ日時又ハ一定ノ期間内ニ履行ヲ為スニ非サレハ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ於テ当事者ノ一方カ履行ヲ為サスシテ其時期を経過シタルトキハ相手方ハ直チニ其履行ヲ請求スルニ非サレハ契約ノ解除ヲ為シタルモノト看做ス

 くらべてみてすぐわかるところがあります。旧商法には,「商人間の売買において」がありませんでした。それゆえに争いがありました。通説及び判例(東京控判T15.9.15)は,商人間の売買に限ると解していましたが,商人間の売買に限られないとする有力な反対説がありました。平成17年の商法改正により,この争いに終止符が打たれたことになります。