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再録 発起設立と募集設立 その4 [会社法いろいろ]

 会社法は,株式会社の設立の方法として,発募集設立の方法を存続させることにしました。これにより,依然として,両者の異同,比較が問題となります。もちろん,募集設立の方法を存続させて,発起設立と募集設立の方法の二つの方法があるということですが,だからと言って,これまでと全く同じではなく,各所に改正が加えられています。

 その中の一つ,払込取扱銀行等の払込金保管証明責任について,実は,これが,今回のシリーズのテーマだったのです。平成2年商法改正後,平成17年会社法成立まで,発起設立においても,募集設立においても,払込みは,発起人が定めた払込取扱金融機関(以後,払込取扱銀行等)でしなければならないことになっていて,その銀行等は払込金保管証明責任を負わされたのでした。これは,払込みの仮装を防止し,出資の履行を確実にするというのがその理由でした。

 このように,発起設立であっても,銀行等との間で銀行等が払込取扱銀行等となる委任契約をして,手数料及び報酬を支払わなければならなかったのです。銀行等が払込取扱銀行等になってくれた上で,ということで,費用がかかることはもちろん,時間もかかります。

 そこで,会社法は,発起設立について,払込みについて,発起人の定めた銀行等の払込み取扱場所においてしなければならないという点において,払込みの仮装を防止し,出資の履行を確実にするということを実現しようとするのですが(会社法34条2項),銀行等の払込金保管証明責任については,廃止しました。

 しかし,募集設立においては,この銀行等の払込金保管証明制度を存続させました。立案担当者は,どう説明しているでしょうか。

 「なお,会社法では,このように,発起設立の場合と募集設立の場合とで規律に差異を設けているが,これは,①株式会社の設立手続の遂行主体である発起人のみが出資者である場合には,出資者自身が,その出資された財産の保管に携われることから,特段の措置を設ける必要がないのに対し,②設立手続の遂行主体でない者が出資する場合であって,かつ出資の対象である株式会社がいまだ法主体としては成立していない状況にある募集設立においては,出資者が出資した財産の保管状況を明らかにする払込保管証明制度を維持することが相当であるためである。」(立案担当者による新・会社法の解説P18)

 「募集設立の場合には,いまだ会社が成立しておらず,また,設立事務に直接関与しない設立時発行株式の引受人が存在することから,そのような引受人の出資金が発起人等に不当に流用されないようにするため,払込金保管証明制度(64条)がなお維持されている。」(論点解説 新・会社法P29)ストレートに書いてあります。

 というわけで,立案担当者の見解では,払込金保管証明制度は,設立時発行株式の引受人だけの保護の規定だということです。設立された株式会社のためでなく,債権者のためでなくのように読めます。発起設立の場合には払込金保管証明制度はないのですから,そう説明せざるを得ないということでしょうか。前二者は,払込取扱銀行等の規制で賄っているということになりますね。