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平成22年度 午前の部 第31問 エとオ [平成22年度司法書士試験筆記試験]

 第31問で多くの受験生が考え込んだのは,エとオではなかったかと思います。

 会社法429条1項の株式会社の第三者に対する責任の法的性質については,争いがあるわけですが,判例及び通説は,法定責任説に立っています。これは,法が認めた特別の法定責任(法定の特別責任)であるとするものです。この見解は,株式会社が経済社会において重要な地位を占め,役員等がその職務を行うについて第三者に損害を生じさせることがあるため,第三者保護の必要性があることから,特に,規定を置いたものであるとし,悪意や重過失は,第三者の加害の点ではなく,株式会社に対する任務の懈怠についてであるとします。判例もこの見解に立ちますが(最(大)判S44.11.26参照),任務の懈怠ですから,役員等が職務権限を有することが前提となっています。したがって,この法定責任説と設問の見解との間には,論理的な関係はない・・・むしろ,取締役ではなく,取締役の職務権限を有しない表見取締役に,会社法429条1項の責任を課すことは,理論上無理があるのではないかという疑問も生じます。
  しかし,法定責任説に立つ判例(教授の示した見解)は,表見取締役は,登記事項が不実であること,換言すれば,当該会社の取締役でないことをもって善意の第三者に対抗することができず,その結果として,旧商法266条ノ3にいう取締役としての責任を免れることができないとしています。つまり,会社法908条2項が類推適用される以上,当該表見取締役は,自己が取締役でないことをもって,第三者に対抗することができず,その結果として会社法429条1項の責任を免れないと結論づけています(会社法判例百選P163参照 )。
これに賛成する学説においては,「ここに取締役でないということは,Yが取締役としての業務執行の権限義務を有しないことを善意の第三者に対抗することができないということであり,したがってYは第三者に対して責任を負わなければならないとされ,その責任の根拠は,Yが何もしなかったことあるいは業務一切を他の取締役に任せきったことに求められている」(同)。これが,つまり,学生オの解答になります。

 平成22年度 午前の部 第31問
 教授: 一方,会社法第429条第1項の責任の法的性質については,取締役の会社に対する任務懈怠があれば,第三者に対する故意・過失がなくても責任が生じ得る法定の特別責任であるとの考えがありますが,そのような考えは,この見解と論理的な関係がありますか。
 学生:エ 会社法第429条第1項の責任を法定の特別責任を解することにより,会社法第908条第2項を通して外観に対する信頼を問題にすることができると説明することができるので,そのような考え方は,この見解と論理的な関係があります。×
 教授: この見解によると,会社法第429条第1項の「役員等がその職務を行うについて」の要件については,どのように考えますか。
 学生:オ 表見取締役は,真実,取締役ではないものの,取締役としての権限・義務がないことをもって善意の第三者に対抗することができないので,何もしないことが取締役がその職務を怠っていることになると考えます。○

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