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任意後見制度 その2 [後見制度]

 精神上の障害によって事理を弁識する能力(判断能力)が劣るようになった人をサポートする制度としての後見制度には,法定後見制度と任意後見制度があります。

 法定後見は,民法が定めている制度であり,すでに精神障害によって事理を弁識する能力が劣るようになった人について,一定の者の請求により家庭裁判所が後見等の開始決定をすることにより行われ,後見人等(成年後見人,保佐人,補助人)も家庭裁判所が選任します。成年後見,保佐,補助と3類型があります。

 これに対して,任意後見は,本人の事理弁識能力が正常であるうちに,将来事理弁識能力が不十分になった場合に備えて,あらかじめ,任意後見受任者(例えば,プロであれば,司法書士や弁護士等)と,自分の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務の委託,その委託に係る事務について代理権を付与する旨の契約を締結して,いざ,事理弁識能力が不十分になったというときに,一定の者の請求により,家庭裁判所が任意後見監督人を選任することにより,効力が発生し,開始されるというものです。必ず本人の意思に基づくものであることから,任意後見制度と呼ばれています(もっとも親権者等の法定代理人が任意後見契約を締結することも可能です)。

 (なお,任意後見法が典型的に予定した類型は,上記のように,現時点において判断能力に問題はない人が,将来に備えて任意後見契約を締結するというものですが,すでに判断能力が不十分である人についても,契約締結に必要な意思能力があるのであれば,任意後見制度を利用することができないわけではありません。しかし,このような場合には,法定後見制度を利用できるものであれば,その方がよいのではないかと私は思います。)

 このような契約は,民法による一般の任意代理契約(財産管理等委任契約)でも可能です。委任者の精神障害のレベルが一定程度になったときに,一定範囲の代理権の授与の効果が発生するという内容の契約を締結すればよいからです。しかし,このような任意代理契約は,本人が事理弁識能力が不十分となった段階において契約の効力が発生するものですから,本人のコントロールが及ばなくなってからの受任者に対する公的な監督の制度がないので,本人にとって大きな危険があります(受任者の濫用の危険)。利用しにくいということにもなります。

そこで,立法担当者によれば,本人が自ら締結した任意代理の委任契約に対して本人保護のための必要最小限の公的な関与(家庭裁判所の選任する任意後見監督人の監督)を法制化することにより,自己決定の尊重の理念に即して,本人の意思が反映されたそれぞれの契約の趣旨に沿った本人保護の制度的な枠組を構築しようとして制定されたのが任意後見法であるという説明となります(民事法情報No.160 P21~P22参照)。

 さて,例によって,条文を見ておきます。今日は,任意後見法(任意後見契約に関する法律)第1条と第2条1号です。第1条は,この法律の趣旨で,第2条1号は,任意後見契約の定義です。

(趣旨)
第1条 この法律は,任意後見契約の方式,効力等に関し特別の定めをするとともに,任意後見人に対する監督に関し必要な事項を定めるものとする。

(定義)
第2条 1号 任意後見契約 委任者が受任者に対し,精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し,その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって,第4条1項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めがあるものをいう。


第2条1号を読めば,任意後見監督人の存在がとても重要であるということが理解されます。専門職後見人である司法書士の不祥事が報道される中,後見監督人の存在の重要性が意識されています。

なお,一般の人向けのパンフレット等をみると,事理弁識能力の用語は使われることなく,判断能力と言い換えられ,その精神上の障害という用語を使用しないものが多いようですが,条文から出発すべきと考える私としては,用語は,難しくても,基本的には,法律上の用語でということで,以下,書き続けます。


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