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大会社 [Twitterから]

旧商法時代には,特例法(株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律)という法律があって,そこに,大会社と小会社の特例が規定されていました。そこで,株式会社には,その規模により,大会社,小会社,中会社の3種類に分けられました。法律の名称の通り,監査等に関する特例です。大会社については,規模が大きいから,監査を厳格にし,小会社については,規模が小さいから,監査を緩めるというわけです。その中間,つまり,商法(旧商法)の全面的適用があるのが,中会社というわけです。もっとも,大会社と小会社は,実定法上の概念でしたが,中会社は,実定法にはないものでした。

会社法は,規模による区別として,大会社とそれ以外の会社という分け方をしました。小会社の概念は消滅しました。中会社もですね。これまでの小と中をあわせて,大会社でない株式会社ということになります。

大会社については,監査を厳格にするという点については,基本的に,変わりません。そこで,機関設計の規律の柔軟化とは言いながら,会社法は,大会社については,公開会社であるかどうかを問わず,独立した監査のプロである会計監査人を必ず置かなければならないとされます(会社法328条2項)。また,公開会社である大会社では,監査役会又は委員会のいずれかを置かなければならないとされます(同条1項)。内部監査を充実させる必要があるということです。では,非公開会社である大会社はどうでしょう。非公開会社においても,会計監査人を置かなければなりませんから,その地位を守る者として,監査役又は委員会を置かなければなりません(会社法327条3項)。監査役については,もちろん業務監査権限を有しなければ話になりませんから,非公開会社であっても,定款をもってしても,会計監査の権限にとどめることはできません(会社法389条1項括弧書)。

他には・・・内部統制システムの構築が義務付けられます(会社法348条4項,362条5項)。貸借対照表の公告だけでなく,損益計算書の公告もしなければならない,連結計算書類・・・。

さて,規模が大きいといいましたが,どのような基準で規模が大きいというのでしょうか。常識的に考えればいいのですが,イメージとしては,取引が非常に多い,債権者がとても多いということでしょうが,客観的基準が必要ですね。会社法は,資本金の額と負債の総額との2重の基準によります(かつて,資本金の額だけが基準とされていた時代もありました)。前者は,大きな事業活動が可能であり,後者は,借金が多いということで,取引,債権者が多いことが想定されると考えられます。

会社法第2条6号です。
六 大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上であること。

いずれも,最終事業年度に係る貸借対照表に計上された金額が基準とされていますね。
最終事業年度に係る貸借対照表は,(1)株式会社の成立後最初の定時株主総会を経ていない場合には,会社法435条1項の規定により作成した株式会社成立の日の貸借対照表,(2)株式会社成立後の通常の株式会社では,会社法438条2項により定時株主総会の承認を受けた貸借対照表,(3)会社法439条により要件を充たす会計監査人設置会社で取締役会で計算書類が確定した株式会社では,定時株主総会に報告された貸借対照表です(同括弧書)。

特例法は,次のようになっていました。

特例法第1条の2 この法律において「大会社」とは,次の各号のいずれかに該当する株式会社をいう。
一 資本の額が5億円以上であること。
二 最終の貸借対照表の負債の部に計上した金額の合計額が200億円以上であること。

そこで,特例法時代においては,期中で,資本金の額が増減した場合には,期中で大会社になったり大会社でなくなったりするため,ある規定が大会社に適用されるかどうかが問題となりました(経過規定が置かれていました)。しかし,会社法は,期中に資本金の額が増減しても,大会社は,資本金の額との関係では,「最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上であること。」とされますから,期中において,大会社になったり,大会社でなくなるということはなく,また,適用関係で問題になることはありません。

なお,負債の総額200億円未満になることによって大会社でなくなる場合についても,会社法のもとでは,もう1事業年度待つことなく,大会社でなくなるという点も,特例法時代と異なります。