SSブログ

平成21年度午前の部第34問 イ オ エ [Twitterから]

先週の金曜日及び昨日と今日,Check Test会社法で,昨年,司法書士試験で出題された問題に関する出題をしましたので,その部分に関する司法書士試験の問題の解説を書きました。

平成22年度司法書士試験午前の部

問題文
第34問 会社法上の訴えに関する次のアからオまでの記述のうち,判例の趣旨に照らして誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
イ 株主は,株主総会の決議の取消しの訴えを提起した場合において,当該株主総会の決議の日から3か月が経過したときは,新たな取消事由を追加主張することはできない。

オ 株主は,他の株主に対する招集手続の瑕疵を理由として,株主総会の決議の取消しの訴えを提起することはできない。

エ 株主は,募集に係る株式の発行がされた後は,当該株式の発行に関する株主総会の決議の無効確認の訴えを提起することはできない。
※ オについて,「瑕疵」については振り仮名(かし)が振ってあります。

解答・解説
イ 正しい
株主総会の決議の取消しは,株主総会の決議の日から3カ月以内に,訴えをもってのみ主張することができることとされています(会社法831条1項)。この提訴期間との関係で決議の日から3カ月以内に,ある事由を取消事由として取消しの訴えが提起された後,3カ月経過後に新たな取消事由を追加主張することができるかどうかについて,争いがあります。この点について,最判昭和51年12月24日は,所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは許されないとしています。これは,この規定の趣旨が,瑕疵のある決議の効力を早期に明確にすることにあることがその理由です。

オ 誤っている
旧商法当時ですが,最高裁判所は,株主は,自己に対する株主総会の招集手続に瑕疵がなくても,他の株主に対する招集手続に瑕疵のある場合には,決議の取消しの訴えを提起することができる旨判示しています(最判S42.9.28)。招集手続に瑕疵がある場合の決議の取消しの訴えの制度は,手続の瑕疵それ自体に対する非難というよりは,むしろその瑕疵のために公正な決議の成立が妨げられたかも知れないという意味での抗議を認める制度で,決議の公正について他の株主も利害関係をもつからです(会社法判例百選第六版 P67)。

エ 正しい
旧商法当時ですが,最高裁判所は,新株発行がすでに発行された後は,新株発行に関する決議無効確認の訴えは,もはや確認の利益を欠き提起できないと解しています(最判S40.6.29)。この趣旨に照らせば,株主は,募集に係る株式の発行がされた後は,当該株式の発行に関する株主総会の決議の無効確認の訴えを提起することはできないということになります。募集に係る株式の発行がされた後は,新株発行無効の訴えの制度がある以上,この訴えを提起しないかぎり当該新株の発行を無効とすることはできないからです(上記判決参照)。

再び Check Test 会社法について [Twitterから]

昨年の8月2日に,twitterのCheck Test 会社法を再開しました。ずっと毎日続けてやっているよという人もいれば,1週間とか1か月とかまとめてやっている人もいれば,脱落した人もいるようです。もちろん受験勉強中の人が圧倒的なのですが,中には,すでに合格した人もいます。ときどき,本職の方や昨年の合格者の方からDMをいただきます。

最近,また少し新しくやり始めたという人も増えてきたような感じがします。

「再び Check Test 会社法について」というタイトルで書こうと思ったのは,今朝,Check Test 会社法の解答の最後のページ番号は,何のものですか?という質問が入ったからです。twitterで,私が書いた「体系書 会社法 上巻」 http://amzn.to/ecKpQg  のページ番号ですと書けば済むのですが,ついでに,かつてここで書いたものを改めて紹介しておこうと思いました。かつてかいたところからその一部を引っ張ってきます。

 「答えは,基本的に○×です。条文読みなさいよというときは,条文(第○○条第○項)を示します。解説したいなと思ったときは,このブログに書くことにします(これまで通りです)。

 「体系書 会社法」に従って,作成して行き,解答の際にその頁を示し,「体系書 会社法」を持っている方は,これに従って,読み進むことができるようにしたいと思います。問題編と解答編に分かれますが,解答編には,問題文を表示しません(表示すると140字の問題で面倒な事態が発生したことがたびたびなもので)。できれば,これ用にリストを作って,見てもらうといいと思います。

 土曜日及び日曜日はお休みとし,もし,ウイークデイにやむなく休んだ場合には,その週の土曜日又は日曜日に振り替えることとし,問題は朝,解答は晩ということにしたいと思います。

 できたら,問題文を読んで○とか×とか,頭の中だけでなく,紙もしくはPCに表をつくって(エクセル等を使って)記録していくといいのではないかと思います。朝に解答して夜に正解したかどうかを確認して,採点しておく。できれば,どうして間違ったかもあるといいですね。知らなかった。○○とかんちがいしていた,読み間違えた・・・条文をきちんと読んでいなかった・・・。特に,○○とかんちがいしていたというとき,これをすぐに確認するかどうかが,資格試験に合格するためにとても大事なことではないかと,私は,長年の受験指導を通じて思うようになりました。もちろん,確認しても忘れることが多いから,メモ等で残さなければなりません。トンネルからなかなか抜け出せない受験生にとって,トンネルから抜け出すことができるかどうかのポイントになるのではないかと思っています。
 
 表を作成すると継続することができます。幼稚園の園児のように,シールを貼ってという訳には行かないでしょうが,休まずに続けてきた自分の記録がどこかにあると,自分を励ますことができるのではないでしょうか。

 






民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し その4 [民法]

親権停止の審判の制度の創設

要綱案 第2
2 親権停止の審判
① 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官の請求により,その父又は母について,親権停止の審判をすることができるものとする。
② 家庭裁判所は,親権停止の審判をするときは,その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間,子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して,2年を超えない範囲内で,親権を停止する期間を定めるものとする。

現行制度は,親権(全部)の喪失の制度がありますが,親権(全部)の停止(一時的制限)の制度はありません。今回,これを新たに創設しようというものです。

日弁連も日司連も,これに賛成しています(「児童虐待防止関連親権制度部会資料7」)。

日弁連
親権の一時的制限制度の創設は,①親権者が親権回復をあきらめずに,回復の希望を持ちながら裁判所や児童相談所等の指導に従う可能性が高まること,②児童相談所等にとっても,親権者との関係性を維持しながら指導を行いやすいこと,③裁判所の選択肢が広がり,個々のケースの特性に応じた対応が可能となることから,必要性が高い。

日司連
親権喪失後の親子の再統合を考えた場合,現行制度にはない親権制限の期間を限る制度を設けるのが相当である。親権喪失事件の認容割合が低い理由の一つとして,親権制限が硬直的であることが考えられるので,現行の親権制限の在り方については見直す必要がある。

親権停止の原因については,親権の喪失の原因が,「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」とされるのに対して,「子又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」とされています。

親権停止の審判の申立人は,親権の喪失の宣告の申立人と同一で,「子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官」とされています。

親権停止の期間は,家庭裁判所が,2年を超えない範囲内で定めるものとするとされています。案としては,原則として,2年間として,家庭裁判所が,特別の事情があるときに2年を超えない範囲内で期間を定めて停止(一時的制限)をするというものもあったようですが,家庭裁判所が,事案ごとに「その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間,子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して,」相当な期間を定めるものとされました。

I can ! [雑談]

Yes, we can.というのが流行りましたが,Weではなく,I で、しかも,そのずっと前の話です。

授業中にも,話したことがありますが,阪神大震災のときのことです。娘が行っていた大学の先生の言葉です。娘から聞きました。それ以来,私の部屋のコルクボードに,太い字で I can! と書いた紙が貼ってあります。

阪神大震災のとき,神戸出身の先生が,神戸にいる母をまさに探しに出掛けるときの言葉です。かならずや母のもとにたどりつくぞと。電話が通じなくなり,交通も途絶した状態の中で,安否を気遣いながらの言葉だったそうです。私の親友も,神戸にいて,しばらく連絡がつかずどうなっただろうかと心配していた最中でした。どこから,交通途絶となったか忘れてしまいましたが,歩いてでも,ということで,出発されたそうです。I can!と学生たちに告げて。

大変な思いをして,母親のもとに辿り着かれたのでしょうが,そのときのI can!という言葉は,その後,いろいろな場面で私の背中を押してくれました。

I can !


民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し その3 [民法]

民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し つづき

黒が現在の民法の条文で青が要綱案です。

(親権の喪失の宣告)
第834条 父又は母が,親権を濫用し,又は著しく不行跡であるときは,家庭裁判所は,子の親族又は検察官の請求によって,その親権の喪失を宣告することができる。

第2 親権の喪失等
1 親権喪失の審判
父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは,家庭裁判所は,子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官の請求により,その父又は母について,親権喪失の審判をすることができるものとする。ただし,2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは,この限りでないものとする。


改正点が3点あります。第1に,親権喪失の原因(親権喪失の審判をすることができる場合),第2に,親権の喪失の審判の申立人の範囲,第3に,ただし書(親権喪失の原因の消滅)です。ここでは,第1と第2についてみてみることにします。

1 親権の喪失の原因
  「父又は母が,親権を濫用し,又は著しく不行跡であるとき」⇒「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」と改正しようとするものです。親権を喪失させるものであり,新たに設けられる親権停止の制度(親権を喪失させるのではなく一定期間停止する)を設けることから,停止の場合よりも重大な原因とされています。親権の喪失の原因の典型例として,虐待又は悪意の遺棄を例示したうえで,「子の利益を著しく害するとき」とされ,子の側からみて(現在の民法は一方的に親の側を見ています),子を守るために親権の喪失の審判をするのだということが読み取れます。親権は,子の利益のために行わなければならないのであって,子の利益を守るために,親権の停止,場合によっては親権の喪失の審判が行われるということですね。なお,これまで宣告とされていましたが,「審判」とされています。

 なお,親権の停止の原因は,「子又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」とされています(要綱案第2の2の1)。

2 親権の喪失の審判の申立人の範囲
  現在,民法上は,申立人は,「子の親族又は検察官」とされ,別に,児童福祉法33条の7により児童相談室長も,請求することができるものとされています。要綱案は,「子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官」として,子本人及び未成年後見人,未成年後見監督人を追加しています。この申立人については,親権の停止の審判と同一とするものとされています。

 申立人に子を加えることについては,かなりの議論があるようです。実際問題としては,年長の子どもが問題となるものと考えられます(もっとも,年齢による制限は設けられていません・・・一定年齢以上の子に限って認めるという考えもあったようですが)。児童相談室長その他の申立権者による適切な行使で足りるとか,親子関係を決定的に損なってしまう,子どもが親族間の紛争に巻き込まれる等々を理由とする反対論があるようですが,要綱案は,子を申立権者に加えました。児童相談室長その他の申立権者による適切な行使を期待することができない場合等があることを考慮したものと考えられます。

 民法834条は,明治民法の規定をそのままうけたものだと言われますが,明治民法制定の際,子本人が申し立てることができない理由として,「子トシテ親ヲ訴フルハ名分ノ上ニ於テ許ササル所ナルヲ以テ」(理由書156)ことが挙げられています。(名分とは,身分・立場などに応じて守らなければならない本分 大辞林)

 未成年後見人及び未成年後見監督人が追加されていますが,これは,親権者が親権を有していても,親権者が親権を行使することができないことを理由に未成年後見の開始の審判を受けている場合があることによります。特に,親権の停止の審判が行われた場合には,未成年者について後見開始原因となって,未成年後見人(及び未成年後見監督人)が選任されていたところ,虐待等の程度がひどくなって,親権の喪失の原因が生じた場合に効力を発揮するのではないかと思います。未成年後見人(及び未成年後見監督人)については,文言上,別に限定はありません。親権者が管理権の喪失の宣告を受けた場合にも,未成年後見が開始し,この場合に選任された未成年後見人も,親権の喪失の審判を申し立てることができると解されます。

 検察人が申立権者として残されています。検察官を除くのではないかということを何かで読んだ記憶があるのですが(明治民法から現民法になる際にも同じ問題が生じていたそうです。明治民法時代に検察官を申立権者から削除することになっていたが,現民法で,検察官を残したようです)・・・。実例としても,検察官が申立人となったことはないのではないかと思われるので,除くのではないかと・・・。しかし,要綱案は,検察官を残しました。親権喪失・親権停止によって子を救う最後の切り札として残しておくということでしょうか。注釈民法(23)P167は,現行民法で検察官も請求権者であるとされたことについて,「親権の義務性とくにその社会的義務性が強調されていることに照応するものと解する。」とされています。

民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し その2 [民法]

現在の民法の条文と要綱案を対比させてみて行こうかなと思います。青が要綱案で,現在の民法等の条文をはさんで示していくことにします。

(監護及び教育の権利義務)
第820条 親権を行う者は,子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負う。

第1 親権の効力
1 監護及び教育の権利義務 親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負うものとする。

(懲戒)
第822条 親権を行う者は,必要な範囲内で自らその子を懲戒し,又は家庭裁判所の許可を得て,これを懲戒場に入れることができる。
2 子を懲戒場に入れる期間は,6箇月以下の範囲内で,家庭裁判所が定める。ただし,子の期間は,親権を行う者の請求によって,いつでも短縮することができる。

2 懲戒
① 親権を行う者は,第1の1の規律による監護及び教育のために必要な範囲内でその子を懲戒することができるものとする。
② 民法第822条の規定中,懲戒場に関する部分は削除するものとする。

自分には親権・懲戒権がある(法律で保障されている)として,自分の児童虐待を正当化する親がいること等から,民法に定められた懲戒権の規定を削除すべきであるという意見があるようですが,要綱案は,懲戒権の規定を残したうえで,字句の追加・修正,削除をするものとしています。

まず,民法820条に,子の看護・教育権は,子の利益のために有することを明記し,民法822条1項について,「親権を行う者は,第1の1の規律による監護及び教育のために必要な範囲内でその子を懲戒することができるものとする」という形で逸脱した懲戒は認められない旨を示そうとしています。

また,前回,言及したように,懲戒場に関する規定は削除するものとしています。

続く。

民法の改正 「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する要綱案」 [民法]

民法の改正 「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する要綱案」

法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会(部会長 野村豊弘学習院大学教授)は,12月15日,「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する要綱案」を取りまとめ,法務省はこれをウェブサイトで公表しました。http://bit.ly/hA8UvL

法制審議会は,来年2月,法務大臣に正式に答申する見通しで,政府は,通常国会に民法など関連法案の改正案を提出する予定とのことです(12月16日付け朝日新聞)。

今,立法担当官初めたくさんの人が条文作成の準備にかかっているのではないかなと思います。

一昨日と昨日,年末のあいさつかたがたということだと思いますが,司法書士試験受験生の2人から同じ質問がありました。民法改正についてです。債権法の改正のことかなと思いましたが,いずれも,親族法ということなので,上記のことでした。もっとも,成立は4月以降でしょうから,今年の司法書士試験には現在の民法に基づいて出題されることになるのでしょうが,このあたりのことを勉強しておいて損はない(この箇所の出題の可能性も・・・)ということを話しました。

それで,私は,今,「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し」について読んでいます。

今,自分にとって一番興味があるのは,あるいは知りたいのは,実際に,その条文がどのように生きているか,利用の頻度,利用のされ方等です。そういうことが書かれている文献をみると,うれしいですね。

例えば,民法822条は,次のように規定しています。
(懲戒)
民法第822条 親権を行う者は,必要な範囲内で自らその子を懲戒し,又は家庭裁判所の許可を得て,これを懲戒場に入れることができる。
2 子を懲戒場に入れる期間は,6箇月以下の範囲内で,家庭裁判所が定める。ただし,この期間は,親権を行う者の請求によって,いつでも短縮することができる。

この条文をみて,いつも,どれだけの人がこの制度を利用しているのだろう,懲戒場ってどんなところなのだろうと,かつてよく思っていました。内田先生の民法Ⅳで,このことに触れてある箇所にきて,うむむ・・そうなのか・・・でした。懲戒場に該当する施設は,戦後の児童福祉法・少年院法の制定とともに存在しなくなった・・・したがって,民法822条2項の意味は失われている。

今回の要綱案では,「民法第822条の規定中,懲戒場に関する部分は削除するものとする。」となっています(要綱案第1 2 ②)

児童虐待の事件の報道が多くなって,親族法の勉強の際,民法822条(懲戒),834条(親権喪失の宣告),835条(管理権喪失の宣告)のあたりで,児童虐待のことが頭に浮かぶようになっていると思いますが,特に,児童虐待防止のため,親権喪失の宣告の制度が多く利用されていると思いますよね。

そうではないのだそうです。平成21年度の親権の喪失の宣告事件は,新受件数が110,そのうち,親権の喪失の宣告が21だそうです。後見人との違いでよく勉強する管理権喪失の宣告は,なんと0です(法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会 参考資料3-3)。

どうしてか?この点に関して,以下の文章を引用したいと思います(児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する検討事項(1)第1 1 補足説明 1)。

「現行の親権喪失制度については,①その効果が期限を設けずに親権全部を喪失させるものであること(いわばオール・オア・ナッシングの制度であること)から,効果が大きくて申立てや宣告がちゅうちょされる,②その要件である親権喪失の原因が親権の濫用又は著しい不行跡とされていることから,申立てや審判の在り方が親権者を非難するような形になり,親権喪失宣告後の親子の再統合に支障を来すといった問題があり,必ずしも適切に利用されていない状況にあるものと考えられる。
 そこで,第1の1では,親権喪失制度について指摘されている前述のような問題点を解消し,現実の必要に応じて適切に親権を制限することができるようにするために,民法に,家庭裁判所の審判により一定の期間に限って親権を行うことができないものとする制度(親権の一時的制限制度)を設けるとともに,親権喪失の原因について見直しを行うことを提案している。」

以下,児童虐待防止関連親権制度部会資料等を参照しながら,続きを書こうと思っています。

今年もあと14時間弱となりました。どうぞよい年をお迎えください。

インプット [雑談]

しばらくブログから離れていました。そろそろ何か書かなくてはと思っていました。何を書こうかなと考え,近況報告(いいわけ)を書こうということになりました。インプットという題にしてありますが・・・。

10月あたりから身体のあちこちが故障し始めました(たいしたことではないのですが)。これまで無理をしたから今頃になってとか,ストレスだろうとか,お医者さんを含めて周りでいろいろ言われています。

そのうちのひとつが最近の腱鞘炎です。これが腱鞘炎なのか,痛いな・・・。水道の蛇口をひねることができない。封筒を手で破れない。朝,ジャムのふたが開けられない・・・服が着れないこともある・・等々・・・。痛い。初めは,右手だけだったのですが,左手もということになり,PCは控えよと言われながら,使っていましたが,治らないので,とうとう,自重することにしました。全くPCを使っていないわけではないのは,twitter等ご覧の方は,ご存知だと思います。今,現在も,お医者さんに怒られるかなと思いながらも,打ち込んでいますよね(まあ,お医者さんも,「できるかぎり・・・」で全面禁止というわけでもなかった)。

PCの打ち込みをしない・・・困った・・・。で,考えました。今こそ,インプットだと。しっかり本を読もうと。これまで長い間,インプットのための時間がどれだけほしかったことか。

というわけで,読みたかった本を読んでいます。内田貴著 民法ⅠⅡⅢⅣは,読んでないことはないのですが,拾い読みしただけです。問題作成・解説のため,基本書の改訂の際等に拾い読みしています。しかし,通して読んでいません。このたび,最初から,1字1字舐めるように読んでいます。民法Ⅰを読み終わり,今,民法Ⅳ親族法を読み終わりました。全体を通して読む気持ちのよさというものを久しぶりに体験しています。

そのほか,民訴や執行法の本も読んでいます。

株券不所持制度 [Twitterから]

 株券発行会社において,定款で株主が株券不所持の申出をすることができないと定めることができるか。

 今日のCheck Test 会社法№241
 「株券発行会社の株主は,定款の定めがあれば,当該株券発行会社に対し,当該株主の有する株式に係る株券の所持を希望しない旨を申し出ることができる。○か×か。」

 ○とした人も,かなりいたのではないかと思うのですが,どうでしょうか?「定款の定めがあれば」という部分が誤っています。定款の定めは必要ではありません。

 では,定款で株券不所持制度を排除することができるでしょうか。

 旧商法では,このようになっていました。
 旧商法226条ノ2第1項前段
 「株主ハ定款ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外株券ノ所持ヲ欲セザル旨ヲ会社ニ申出ヅルコトヲ得」

 株券不所持制度は,会社の事務処理負担を課すものだから定款で排除することを認めたものであると説明されていました。

 しかし,会社法217条1項は,「株券発行会社の株主は,当該株券発行会社に対し,当該株主の有する株式に係る株券の所持を希望しない旨を申し出ることができる。」としています。

 旧商法の規定と異なり,定款による排除の文言がありません。これは,会社法は,定款による排除は認めないということと解釈されます。手許にある立案担当者の書を全部見たものの,これについての説明はみつからなりませんでした。定款により株券発行会社とした以上は(株券不発行が原則なのにあえて株券発行会社としたのだから),事務処理負担は当然覚悟すべきものであって,これを理由に不所持制度を排除することを認める必要はないと考えたのかなと,私は,思っています。

公開会社における有利発行の場合の取締役会への委任 [Twitterから]

 公開会社において,株主に募集株式の割当てを受ける権利を与えないで有利発行をする場合に,株主総会の特別決議で,募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定めて具体的な募集事項の決定を取締役会に委任することができるが,この委任の決議は,払込期日又は払込期間の末日が当該決議の日から1年以内の日である募集についてのみその効力を有する。○か×か。

 今日のCheck Test会社法№217です。正解は,○です。

 正解を○にしようか,×にしようかと迷いましたが,今回は,条文にそって正しい記述としました。

 誤った記述にしようと考えて,作成したものは,次の問題です。

 公開会社において,株主に募集株式の割当てを受ける権利を与えないで有利発行をする場合に,株主総会の特別決議で,募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定めて具体的な募集事項の決定を取締役会に委任することができるが,この株主総会の決議は,決議後最初に発行する募集株式の募集であって,払込期日又は払込期間の末日が当該決議の日から6カ月以内の日である募集についてのみその効力を有する。○か×か。

 ×です。前半をはずして,6カ月か1年かを問うという問題もありですが,前半を生かして後半を1年とするという問題もありですが,後者は,少し難しくなるのかもしれません。


 かつての商法は,このような規制をしていました。そして,平成13年11月に改正が行われました。これを会社法が受け継いでいます。

旧商法280条ノ2第4項(平成13年改正前)
第2項ノ決議ハ決議後最初ニ発行スル新株ニシテ其ノ日ヨリ6月内ニ払込ヲ為スベキモノニ付テノミ其ノ効力ヲ有ス

 改正後
 第2項ノ決議ハ決議ノ日ヨリ1年内ニ払込ヲ為スベキ新株ニ付イテノミ其ノ効力ヲ有ス

 この改正は,資金調達手段の改善のひとつとして行われたもので,この改正により,株主総会の授権決議があれば,それまでよりも2倍の期間,しかも,何度でも有利発行をすることができるようになりました。改正前の規制は,かなり厳しいものだったのですが,これにより,経営陣は,新株発行による資金調達を機動的に,容易に行うことができるようになりました。株主の保護という側面では後退だと思うのですが(1年以内という限定があるからいいだろうということでしょうが),株主のコントロールが緩くなったわけですから,それで,問題はなかったのかが気になるところですが,会社法が受け継いだということは,問題はなかったということなのでしょうか。

 現在の会社法200条3項
 第1項の期間は,前条第1項4号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては,その期間の末日)が当該決議の日から1年以内の日である同項の募集についてのみその効力を有する。

 なお,非公開会社における取締役又は取締役会に対する募集事項の決定の委任についても同様となっています(会社法200条1項,3項参照)。

株式の併合 [Twitterから]

 司法書士試験 受験生のためのCheck Test 会社法№184 株式の併合は,会社法にそれを許容する旨の規定がある場合に限ってすることができる。○か×か。

 答えは,×ですね。どうして,このようなことが問題になるのか(するのか),会社法は,別に限定していないではないか,当然に×ではないかと思われる受験生も多いのではないかと思います。実は,かつては(平成13年6月商法改正前においては),正しい記述だったのです(もちろん,会社法を商法に書き換えてのことですが)。この部分は,かつて制度の改正が行われた重要な部分でした。受験勉強が長い人の中でも,そろそろ忘れ始めたという人も多いのではないでしょうか。

改正があったところについて,詳しくは知らなくても,少しでもいいから知っておくと,あるいは覚えておくと,現在の制度の理解に役立つのではないか,受験勉強に役立つのではないかと,私は,思っています。本職について,多少の時間のゆとりがあるようになったら,各種の改正がどういう効果を果たしたのだろうか,社会・経済にどのような影響を与えただろうか,当該改正が妥当な改正であったのかどうかという点も含めて考えてみるといいのではないかと思っています。

前置きが長くなりました。この株式の併合に関する改正は,会社法(平成17年)によるものではなく,平成13年6月の商法改正によるものです。緊急経済対策の一つとしての緊急改正であり,議員立法による商法改正でした。金庫株の解禁という活字が新聞等に大きく載った改正でした。

 法律案提出理由は,次のとおりです。
 「最近における経済情勢にかんがみ,経済の自由度を高め,経済構造改革を進める観点からいわゆる金庫株の解禁に関し商法等の規定の整備を行うとともに,個人投資家の株式投資への参入を容易にするため,株式に係る純資産額規制を撤廃する等の必要がある。これが,この法律案を提出する理由である。」

 このときの商法改正は,大きく,自己株式の取得及び保有に関する規制の見直し(金庫株の解禁),株式の大きさ(単位)に関する規制の見直し,法定準備金制度の規制の緩和,その他の改正に分けられます。株式の併合に関する改正は,このうち,株式の大きさに関する規制の見直しに係ります。

 平成13年6月の商法改正前においては,商法は,株式の併合が認められる場合を次の3個の場合に限定していました。①1株当たりの純資産額を5万円以上とする場合,②合併や会社分割の準備行為として株式の割当て比率の調整をする場合,③資本減少の一方法としてする場合,です。どうして,限定していたかが問題ですね。それは,併合に適しない端数が出るときの株主の不利益及び株式の一部を譲渡することができなくなってしまう株主の不利益を考慮したものだといわれていました。上記の3個の場合には,株式の併合の必要性あるいは実益が大きいため特に許容したというものです。

 平成13年6月の改正商法は,株式の大きさ(出資単位)に関する会社の自治の尊重の観点から,株式の併合を自由化したといわれていますが,株主総会の特別決議及び株式の併合を必要とする理由の株主総会のおける開示を要件としました。これが,会社法に受け継がれました。

時間不足その2 [受験勉強]

 前回のテーマは,解答の時間不足を考えるというものでした。今回は,同じ時間不足ですが,学習の過程での時間不足がテーマです。

 学習の過程での時間不足についての相談の中には,仕事を持っていて勉強する時間がとれないというものもあります。これは,基本的には自分で何とかする問題だろうと考えていますので,回答としては,相談者がどれだけ真剣に勉強しようとしているかによって異なります。だから,人によりいろいろな回答をしてきました。

 今日のテーマは,学習の過程での時間不足のうち,参考書を読み,過去問集・問題集等に取り組むのに時間がかかって仕方がない,いつまで経っても終わらないというものです。いろいろな理由があるようですが(前提の知識が多少あるとか全くないというような問題がありますが,ここでは措きます),集中力の問題だと思えるものが多いのではないかと思います。そして,それは,スケジュールがきちんと立てられていないことからくるものが圧倒的ではないでしょうか。スケジュールをきちんと立てて(年内,1か月,1週間,1日),なんとしても,そのスケジュールに従って終了するように心がけること,その努力をすることが何よりだと私は考えています。その中でスピードがついてくるし,集中力も養えます。だらだらとやっていてはいけないということですが,スケジュールをきちんと立てると,だらだらしている暇などないことにすぐ気が付きます。今週は,・・・を仕上げる,今日は,○○頁までやると決めたら,なんとしても頑張りぬく!!

 なお,ゆるゆるのスケジュールは,合格のためのスケジュールではなく,スケジュールを立てる意味などありませんが,がちがちのスケジュールも考えものです。今の自分にとって,少々(少々です)きつめにというのがいいのかなと思います。そして,少々きつめで,1週間のうち半日とか1日とか(それぞれの持ち時間によって異なりますが),調整の時間を置くことが大事だろうと思います。スケジュールがうまく行かなかったときは,その時間を使い,うまく行ったときは,ゆっくりするといいのではないでしょうか(映画に行ったり,友達に会ったり,おもいっきり眠ったり,他の遊びをしたり,家族サービスをしたり等々)。

もっとも,受験勉強を始めて間もない人にとってみれば,ともかく時間がかかるということはありますね。それは,ある程度やむを得ないことだと思います。特に,最初から,細部にこだわって,わからないことを置き去りにして前に進むことができない人にとってみれば,絶望的な気持ちになることでしょう。しかし,一度読んですぐにすべてわかるのであれば,誰も苦労はしませんよね。何度も読むということが前提です。1度目は,わからない部分を薄く鉛筆で囲むとか,?を付けて次に進んでいく,2度目にわかるようになるさと思って。2度目に読んでわかれば,囲みや?を消していく,2度目でもわからなければ,3度目でわかるさと思いながら,読み進みます。最後まで読み終わり,全体を見渡して初めて,前に出てきた細かい部分を理解できるようになることも多いはずです。そのとき,囲みや?を消すことができます。

 そして,1度目に時間がかかっても,2度目,3度目と,どんどん時間は短くなります。1度では,勉強したことにはならないと私は考えています。最低,3度は読まなければ,読んだことにはならないと。

 もうひとつ,よくある相談に,すぐ忘れてしまう,どうすればいいかというものがあります。私も,すぐ忘れてしまう人達の仲間ですが・・・。

解答の時間不足を考える [受験勉強]

 司法書士試験は,時間との闘いの一面を有します。

 数日前,「本試験での時間不足が自分にとっての来年への課題だけれど,どうすればいいか」という相談を受けました。

 これまで,受験相談で圧倒的に多かったのが,このことでした。時間不足をどのように克服すればよいか,問題を解くのに時間がかかるということです。

 私は,本試験における時間不足の解消について,次のように考え,答えてきました。

 まず,前提ですが,司法書士試験で合格のために要求されるものが10だとすると,そのうち8まで学習し理解すればよい。10全部を学習し理解することは,ほとんど不可能であり,する必要もないのではないか。では,あとの2に含まれるものが出題されたときに,どうすればよいのか・・・・。それは,法律的勘で解答を出すこと,もちろん単なる勘ではなく法律的勘であって,いわゆる法律的ものの考え方により答えを導くこと。この法律的ものの考え方を8を勉強する中で身につけていきます。

 さて,8のうち6については,合格レベルの受験生が完全に(言葉どおり完全に)マスターしておくべき事柄に属する部分です。この部分は,言ってみれば,合格レベルの司法書士試験の受験生の常識部分であり,この部分の確保・強化が何よりも本試験における時間不足の解消になるはずです。

つまり,例えば,午前の部多肢択一試験2時間で35問,2時間を35問で割ると1問あたりの時間が出るわけですが,それは,約3分26秒。全問同じように3分26秒かけるわけにはいかないことはいうまでもありません。1分で解ける,もしくは解かなければならない問題,3分かかる問題,場合によっては,5,6分かかる問題もあります(30秒で解ける問題,確信をもってこれが正解だとして答えを出せるものも,人によって問題によってはあります)。短い時間で解ける問題をどれだけ多くすることができるか,これが本試験における時間不足解消のためのポイントではないでしょうか。午後の部においては,記述式がありますから,多肢択一については,1時間20分~30分かけることを基準にすると,1問に充てる時間がもっと少なくなりますから,短い時間で解ける問題をもっと多くしなければなりません。

 ゆっくり考えなければならない問題のための時間をつくるために,できるだけ,時間を節約できる問題を多くしなければならないのですが,それは,8のうち6に当たる部分,合格レベルの司法書士試験の受験生の常識部分,です。この部分を繰り返し繰り返し,完璧と言えるまで,確実に学習します。それに,8の残りのあと2の部分を積み上げます(答練,参考書,問題集等で)。

 時間を節約できる部分として不可欠なものとして,過去問があります(過去問の位置づけは,このような所だけにあるわけではありませんが)。過去問は,完璧に理解しておきます。もちろん,これがすべてでないことは,いうまでもありません。合格レベルの司法書士試験の受験生の常識部分というのは,過去問だけではありません(過去問がすべてであれば,基準点は限りなく満点に近くなってしまいます)。もちろん,過去問がその(司法書士試験の合格レベルの受験生の常識部分の)レベルを示しています。

結局,自分が時間不足となるのはどうしてか,他の人が時間があって合格点をとれるのはどうしてかを考えてみれば,以上がその答えになるのではないかと,私は,思います。

定款に株式譲渡制限規定がある場合における譲渡承認機関 [Twitterから]

 株主にとって,株式の譲渡は,投下資本を回収するための重要な手段です。したがって,株式の譲渡は,原則として,自由でなければなりません。しかし,株式会社にとって好ましくない者が株主となって株式会社の運営を阻害することを防止し,株式会社の運営を安定させる必要性が高い株式会社も少なくありません。また,一定の種類の株式については,その内容の特殊性から株式会社の意向に関係なく譲渡されることを阻止したいということもあります。
 そこで,会社法は,株主の投下資本の回収を保障しながら,定款で,発行する全部の株式について(会社法107条1項1号),あるいは特定の種類の株式について(会社法108条1項4号),譲渡による株式の取得について株式会社の承認を要する旨を定めることを認めています。

 その制限の態様として,どのようなものが許されるかが問題です。譲渡制限は,譲渡による株式の取得について株式会社の承認を要するという形でのみ認められます(会社法107条1項1号,108条1項4号)。したがって,株式の譲渡を禁止するということはできません。譲渡禁止は,およそ,譲渡することができないとするものであって,株主の投下資本回収の途を閉ざし,株式会社の承認によって譲渡が認められる途までも否定するものだからです。また,株式の譲渡による取得についての制限ですから,譲渡による取得以外の株式の移転や質入れについて株式会社の承認を要する旨を定めることもできません。

 株式会社の承認となっていますが,では,その承認機関についてはどうなっているでしょうか。会社法139条1項です。まず,本文です。取締役会設置会社でない株式会社にあっては,株主総会の決議,取締役会設置会社にあっては,取締役会の決議によらなければならないとあります。これが原則です。しかし,これにはただし書があって,「ただし,定款に別段の定めがある場合には,この限りではない。」そこで,取締役会設置会社において,定款で定めれば,株主総会を承認機関としたり,代表取締役を承認機関とすることができます(取締役会設置会社出ない株式会社においては,取締役や代表取締役を承認機関とすることもできます)。

 以上は,会社法により,旧商法時代の登記実務の見解を明文の規定により否定したものです。このことを頭のどこかで覚えておいてもいいのではないかと思います。旧商法時代においては(旧商法時代の株式会社は取締役会設置会社),その条文は,「株式ハ之ヲ他人ニ譲渡スコトヲ得但シ定款ヲ以テ取締役会ノ承認ヲ要スル旨ヲ定ムルコトヲ妨ゲズ」(旧商法204条)となっていました。

 争いのあったところではあるのですが,登記実務は,定款で取締役会以外の機関の承認を要する旨を定めることができないとの見解でした。取締役会設置会社である株式会社は,株主総会を承認機関とすることはできないとし,代表取締役を承認機関とすることはできないと解していました。これは,前者は,株主総会の承認を要するとすれば,これを招集するために時間を必要とし,法が定める制限を加重することになって株式譲渡自由の原則に対する重大な侵害になること,後者は,株式譲渡制限が株主に関する事項として重大であるから,上記の規定は,取締役会という会議体において慎重に判断させようとしたものだというところにありました。

株主名簿閉鎖制度はいつなくなった? [Twitterから]

 Check Test №137関連

 本来,株主総会や種類株主総会において議決権を行使したり剰余金の配当を受ける等の権利を有する者は,その時点における株主名簿上の株主ということになります。ところが,株主が多数いて変動する株式会社においては,誰がその時点における株主名簿上の株主であるか(質権者も同様です)を把握することが容易ではありません。しかし,株主(質権者)の権利を行使する者を確定させる必要があります。そこで,そのための制度として,昭和25年の商法改正により,株主名簿閉鎖制度と基準日の制度が商法に規定されました。

 前者は,株主又は質権者を固定して,株主又は質権者の権利を行使する者を確定するため,一定期間株主名簿の書換えをしないというものです。これによって,株主名簿閉鎖時における株主名簿上の株主が株式会社に対する権利を行使することができる株主であるということになります。基準日の制度は,一定の日(基準日)を定めて,その日において株主名簿に記載又は記録されている株主を株主の権利を行使すべき者とする制度です(会社法124条1項)。

会社法をみると,基準日の制度に関する規定はありますが,株主名簿閉鎖に関する規定はありません。いつなくなったのでしょうか。会社法の成立と同時だと思っている人が多いのでなないかと思うのですが,そうではありません。平成16年の商法改正によります。電子公告・株券不発行制度の導入に関する商法改正のときです。

 立法担当官は,その理由について,「株券廃止会社において閉鎖期間を設けることを認めると,その期間内は株式の譲受人や担保取得者は第三者対抗要件を取得することができないことになる結果,株式譲渡の自由が制限されることになる一方,株券廃止会社か否かを問わず,現在の株式実務においては,基準日の制度さえあれば,閉鎖期間制度はなくとも足りることによるものである。」と書かれています(商事法務No.1705 P35)。

 つまり,平成16年の商法改正によって基準日制度に一本化され,会社法は,これを受け継ぎました。



午前の部 第6問 その3 [平成22年度司法書士試験筆記試験]

申込みと申込みの誘引

教授: 最後に具体的な例で聞きますが,賃貸マンションの所有者である甲が「101号室 入居者募集 甲」とだけ書いた張り紙をマンションの入口に掲示して,入居者を募集する旨を表示することは,意思表示ですか。
学生:オ その張り紙を見た乙が,甲に入居したいと申し出ることによって,賃貸借契約が成立しますから,意思表示です。

ここで申込みの誘引について問われています。申込みは意思表示であるが,申込みの誘引は意思表示ではないということで,学生のオにおける解答は誤っているということになります。

申込みと申込みの誘引は,債権各論で登場します。契約の成立のところですね。申込みは,意思表示なのですが,どのような意思表示かというと,相手方の意思表示と合致して契約を成立せることを意図して行われる意思表示である,つまり,その申込みに対して承諾があれば契約が成立するという確定的な意思表示であるということになります。

その申込みに対して承諾があれば契約が成立するというものですから,申込みには,契約の主要な内容を決定する事項が含まれていなければなりません。この関係で区別すべきだとされるのが,申込みの誘引です。誘引とは,(誘い入れること(岩波国語辞典),さそいいれること,いざなうこと(広辞苑),注意・興味をさそってひきつけること。さそいこむこと(大辞林),さそい入れること(新潮現代国語辞典))と辞書にあります。

教授の具体例である入居者募集の張り紙の掲示は,申込みの誘引です。申込みではないということは,もし,これが,申込みであるということになれば,誰であっても,賃貸マンションの所有者に対して,「101号室を借りたい」と言えば,それは,承諾の意思表示として,直ちに,賃貸借契約が成立するということになります。それは,おかしい。誰でもいいわけではないだろう,賃料は・・・・。そこで,それは,申込みではないという説明となります。

張り紙や広告等を見た者がするのが,申込みとなって,張り紙や広告をした者(申込みの誘引者)がこれに対してするのが承諾ということになります。申込みと申込みの誘引との区別は具体的事情(行為が契約の内容を何ら留保することなく指示しているかどうか,契約の相手方が何人であってもかまわないかどうか等が一応の基準になると言われています。不動産売買や賃貸の広告,社員募集広告等は,申込みの誘引と解されています。後者の場合,面接しますよね。もちろん,アルバイトの募集も同じです。

午前の部 第6問 その2 [平成22年度司法書士試験筆記試験]

 せっかく,問題を打ち込んだので,少々,解説を。

 本問では,意思表示とは何かが問題とされています。それで,教授は,「表意者が一定の法律効果を意欲する意思を表示する行為」をいうとしています。それで,意思表示準法律行為との区別の理解を問うというものです。

 準法律行為は,表現行為(意識内容の表現)と非表現行為に分類されますが,さらに,表現行為は,意思の通知観念の通知感情の表示に分類されます(我妻榮著「新訂民法総則」参照)。

上記「新訂民法総則」P234には,「意思表示は,契約の申込・承諾,遺言などのように,表意者が一定の効果を意欲する意思を表示し,法律がこの当事者の意欲した効果を認めてその達成に努力するものである」と書かれています。選択肢アは,ここから持ってきたように見えますが,さて・・・。

 意思の通知については,前掲書によれば,「意思の通知は,無能力者(注1)の相手方のする催告(19条注2)・債務の履行を要求する催告(153条,412条,541条等)・弁済受領の拒絶(493条・494条など)などのように,一定の意思の表示であるが,その意思内容が,その行為から生ずる法律効果以外のものに向けられている点で意思表示と異なるものである。」とされています(同書P234)。

 どういう法律効果が発生するのかが問題なのですね。例えば,「私所有の甲不動産をAに遺贈する。」という遺言であれば,「私」が死んだとき,法律の規定によって私の意欲したところに従って,Aへの譲与の効果,Aへの所有権移転の効果が生ずることになります。これに対して,甲が乙に対してする債務履行の催告であれば,甲の意欲するところは債務者が債務の履行をしてくれることですが,これによって,当たり前ですが,債務が履行されたことになりません。「債務履行の催告の効果は時効中断(153条),履行遅滞(412条3項),解除権の発生(541条)など」(同書)債務の履行とは別の法律効果が生ずるというわけです。

 観念の通知は,ある事実の通知です。債権譲渡の通知が観念の通知であることは,よく知られるところであり,そこで,選択肢エが誤っていることがすぐわかり,これで,4と5が消えて,申込みの誘引について知らなくても正解が出せたとの声も聞こえました。

 遺失物の拾得(民法240条)は,無主物の帰属(民法239条)と同様に,「一定の外形的な行為を本体とするものであって,一定の意識ないし精神作用を要件とする場合にも,その精神作用は,従たる地位を占めるものである」(前掲書P234)とされる非表現行為です。

午前の部 第6問 [平成22年度司法書士試験筆記試験]

平成22年度司法書士試験午前の部第6問

今年の民法の問題です。今年受験された方だけでなく,今年は受験しなかった方,さらに司法書士の方もたくさん読んでくださっているようですので,まず,問題文からです。すでに司法書士になっていて,司法書士試験が過去のものになっている人にも見てほしいなと思う問題です。

行が乱れて読みにくくなるかもしれませんが,ご容赦を。対話形式の問題です。

第6問 次の対話は,意思表示に関する教授と学生との対話である。教授の質問に対する次のアからオまでの学生の解答のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
教授: 表意者が一定の法律効果を意欲する意思を表示する行為を意思表示といいますが,この意思表示の例としては,どのようなものがありますか。
学生:ア 契約の申込みと承諾,さらに遺言があります。
教授: 債務の履行の催告は,意思表示ですか。
学生:イ 債務の履行の催告により,時効が中断することがありますし,解除権の発生という効果が発生することがありますから,意思表示です。
教授:遺失物の拾得は,どうですか。
学生:ウ 遺失物の拾得により,その物の所有権を取得するなどの効果を生じることがありますが,拾得者の意思に効果を認めたものではないので,意思表示ではありません。
教授: 指名債権譲渡の債務者に対する通知は,どうですか。
学生:エ 通知をすることにより,対抗要件を具備することができるので,意思表示です。
教授: 最後に具体的な例で聞きますが,賃貸マンションの所有者である甲が「101号室 入居者募集 甲」とだけ書いた張り紙をマンションの入口に掲示して,入居者を募集する旨を表示することは,意思表示ですか。
学生:オ その張り紙を見た乙が,甲に入居したいと申し出ることによって,賃貸借契約が成立しますから,意思表示です。
1 アイ 2 アウ 3イオ 4 ウエ 5 エオ

アとウが正しい記述で,2が正解です。正解肢が,意思表示の例,遺失物の拾得が意思表示かどうかを問うものだったので,難しい問題ではないとは思うのですが,受験生にとってみればどうだったのでしょうか。申込みの誘引に関するオが正解選択肢とされていたらどうだったか・・・。そうです。正解肢ではなかったのですが,申込みの誘引が出たのです。

申込みの誘引は別としても,しかし,意思の通知や非表現行為といったところを受験生がきちんとやっていたかどうか。答練で,このような問題を出すと,多数かどうかは別として受講生からのブーイングがあったのではないかなと思うのですが・・・。本試験に出ないような問題を出してというブーイングです。かつて,ときどき,直接にではなく(直接は言いにくいでしょうね),他の講師から,「受講生が・・・」と聞くことがあって,その後,しばらく問題が作りにくくなったということがときどきありました。その後,そのようなところの出題を控えたら,その年に出題されて,悔しい思いをしたこともあります。

もっとも,本問で,正解を出せた人にとっては,本試験問題としては,ブーイングはなしでしょうね。

8月27日のテストの正解 [商法総則・商行為法]

 8月27日のテストの解答です。

問題 商人間の売買に関する次のアからオまでの記述のうち,誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア 売買の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達しない場合において,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは,相手方は,相当の期間を定めて催告をしなくても,直ちにその契約の解除をすることができる。
イ 買主は,その売買の目的物を受領したときは,遅滞なく,その物を検査しなければならない。
ウ 売買の目的物に瑕疵又は数量の不足があるときは,その事実を知ってから1年以内であれば,契約の解除又は代金減額もしくは損害賠償の請求をすることができる。
エ 隔地売買において,買主が,売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることによって契約を解除したとき,買主は,原則として,売主の費用をもって売買の目的物を保管し,又は供託をしなければならない。
オ 隔地売買において売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合には,買主は,原則として,売主の費用をもって売買の目的物を保管し,又は供託をしなければならない。
1 ア ウ 2 ア オ 3 イ ウ 4 イ エ 5 エ オ

誤っているものはアとウで,1が正解です。

ア 時期の経過とともに当然に解除の結果を生ずることとされています(商法525条)。
http://bit.ly/bSo4BX
イ 商法526条1項
 http://bit.ly/cFf4mT
ウ 買主は,検査によって売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは,直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければならず,これを怠ると,その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額もしくは損害賠償の請求をすることができないとされています(商法526条2項)。3項も注意です。
http://bit.ly/cFf4mT
エ 商法527条
http://bit.ly/bdixbh
オ 商法528条
http://bit.ly/bdixbh

商事売買 テスト [商法総則・商行為法]

 昨年・今年と商法総則・商行為法から出題されました。来年どうかはわかりませんが,もし,この傾向が続くのであれば,来年は,商法総則の可能性が高いとは思うのですが,商行為法ということになると,商行為総則というところでしょうが,今年と同じ路線ということになると,商事売買あるいは場屋営業主の責任のあたりかもしれません。

 それで,商事売買について,数回にわたって書いてきましたが,読むばかりでは頭に残らないかもしれないので,問題を作成してみました。解説はありませんが(前のブログをご覧ください,ただし,答を出してからです),正解は,twitterの方ででも。

 問題 商人間の売買に関する次のアからオまでの記述のうち,誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア 売買の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達しない場合において,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは,相手方は,相当の期間を定めて催告をしなくても,直ちにその契約の解除をすることができる。
イ 買主は,その売買の目的物を受領したときは,遅滞なく,その物を検査しなければならない。
ウ 売買の目的物に瑕疵又は数量の不足があるときは,その事実を知ってから1年以内であれば,契約の解除又は代金減額もしくは損害賠償の請求をすることができる。
エ 隔地売買において,買主が,売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることによって契約を解除したとき,買主は,原則として,売主の費用をもって売買の目的物を保管し,又は供託をしなければならない。
オ 隔地売買において売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合には,買主は,原則として,売主の費用をもって売買の目的物を保管し,又は供託をしなければならない。

1 ア ウ 2 ア オ 3 イ ウ 4 イ エ 5 エ オ

買主の目的物の保管・供託義務 [商法総則・商行為法]

 買主の目的物の保管・供託義務

 今回で商事売買は,一応,終了です。どうして,商法総則・商行為法について書いているかというと,昨年・今年と商法総則・商行為法と出題が 続いたことから,来年度も出題があるかもしれない,まるで勉強していない人も多いだろうから,今のうちに,一度だけでも目にしていれば,しばらくして,やはり,商法総則・商行為法を勉強しておいた方がいいなと思った人にとって,少しは楽だろうとおもったことにあります。

 今,少し,時間をとって,このブログでも読んでおけば,気がついたことをメモでもしておけば,ひょっとしたら,役立つかもしれないと思い,書いています。ありときりぎりすのありの応援です。

 と同時に,これは,商法の択一問題集の商行為法の部の準備でもあります。書いていくことによって,忘れていたことを思い出し,もう一度記憶として定着させるため私自身が確認をしていっています。

 さて,商事売買の最終回,買主の目的物の保管・供託義務です。
条文からです。

 (買主による目的物の保管及び供託)
 商法527条  前条第1項に規定する場合においては、買主は、契約の解除をしたときであっても、売主の費用をもって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならない。ただし、その物について滅失又は損傷のおそれがあるときは、裁判所の許可を得てその物を競売に付し、かつ、その代価を保管し、又は供託しなければならない。
2  前項ただし書の許可に係る事件は、同項の売買の目的物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
3  第1項の規定により買主が売買の目的物を競売に付したときは、遅滞なく、売主に対してその旨の通知を発しなければならない。
4  前3項の規定は、売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内にある場合には、適用しない。

 商法528条  前条の規定は、売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合における当該売主から買主に引き渡した物品及び売主から買主に引き渡した物品の数量が注文した数量を超過した場合における当該超過した部分の数量の物品について準用する。

 (解除の効果)
 民法545条  当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2  前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3  解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

 民法の規定によれば,売買の目的物の瑕疵又は数量不足によって売買契約が解除された場合には,買主に原状回復義務を負い,目的物の返還義務があるだけで(民法545条),保管したり供託したりする義務は負わされていません。
 しかし,これを商人間の隔地売買に適用すると,売主にとってみれば,その目的物を放置される危険があるし,また,目的物の所在地で売却した方が有利なことが多いからです(返還となると返還費用を負担するだけでなく,このような売却の機会を失うことになります)。

 そこで,商法は,民法の原則を修正して,商人間の隔地売買において,買主が検査通知義務を履行して、目的物の瑕疵又は数量不足を理由に契約の解除をしたときは,買主は,売主の費用をもって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならないとし,ただし、その物について滅失又は損傷のおそれがあるときは、裁判所の許可を得てその物を競売に付し、かつ、その代価を保管し、又は供託しなければならないとしたわけです(商法527条1項,4項)。なお,買主が売買の目的物を競売に付したときは,遅滞なく,売主に対してその旨の通知を発しなければなりません(同条3項)。
また,売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合における当該売主から買主に引き渡した物品及び売主から買主に引き渡した物品の数量が注文した数量を超過した場合にも,当該超過した部分の数量の物品についても,同様に,保管又は供託する義務を負うものとされています(商法528条)。

 これまで,商人間の隔地売買という限定をして書いてきましたが,どこからそんなことが出てくるのかと言われそうです。商法527条4項です。
 商法527条4項は,「前3項の規定は、売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内にある場合には、適用しない。」としています。つまり,逆にいえば,「売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内にないこと」が保管義務・供託義務の要件であるということになります。これは,売主の営業所(営業所がない場合にあっては,その住所)が目的物の所在地にない場合には,売主が直ちに適当な処置をとることができないことを理由に保管又は供託義務を課したということを意味します。したがって,両当事者の営業所が同一の市町村の区域内にあっても,売主が買主の指定した他地に目的物を送付した場合にも,買主の保管又は供託義務が認められると解されています(通説)。結局,隔地売買が要件となるというわけです。

目的物の検査義務と通知義務 その3 [商法総則・商行為法]

 買主の目的物検査義務及び通知義務について,3回に及んでしまいました。思わず,文が長くなりました。しかも,前回の標題が間違っていました。さきほど修正しました。気付かなかったのは本人だけなのかも・・・。

今日は,買主の検査・通知義務の要件と商法526条の適用範囲についてです。

 買主の検査・通知義務の要件

(1) 商人間の売買であること
(2) 買主が売買の目的物を受領したこと
(3) 売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があること
(4) 売主に悪意がないこと

(1) 商人間の売買であること
   商人間の売買であって,両当事者にとって商行為であることを要します(通説)。
(2) 買主が売買の目的物を受領したこと
   目的物を受領しなければ,検査することができないからです。現実に目的物を受領しなければ,検査義務   は発生しません。
(3) 売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があること
   瑕疵は,物の瑕疵(民法570条)に限り,権利の瑕疵は含みません。権利の瑕疵の発見には,通常,長時   間を要するからと言われます。目的物の瑕疵とは,その性質,形状,効用,価値等が,約定された通常の   標準に満たないことを言います。見本品売買の場合には,現物が見本より劣っていれば,瑕疵があること   になります。
(4) 売主に悪意がないこと
   悪意とは,目的物の引渡しのときに,目的物の瑕疵又は数量不足を知っていることを言います。売主が悪   意の場合には,売主を保護する必要はありませんから,商法526条1項及び2項は適用されないことになり   ます。

 商法526条の適用範囲
 商法526条は,特定物売買だけでなく,不特定物売買についても適用があります(最判S35.12.2等参照)。また,買主が売主に対して担保責任を追及する場合だけではなく,債務不履行責任を追及する場合にも適用があります(最判S47.1.25参照)。

目的物の検査義務と通知義務 その2 [商法総則・商行為法]

 目的物の検査義務と通知義務

 民法の規定によれば,売主が買主に引き渡した物に瑕疵があったり,その数量が不足する場合には,買主は,売主の担保責任を追及するには,その事実を知った時から1年以内にしなければならないとされています(民法566条3項)。また,買主が売主に対して不完全履行による債務不履行責任を追及するには,10年の時効期間の猶予があることになっています(民法167条1項)。

 しかし,以上は,迅速性を要求する商取引には適当ではありません。売主と買主との法律関係は,早期に確定させる必要があります。そこで,商法は,商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならないとし(商法526条1項),買主は、この検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければならず、これを怠ると,その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができないとされています(同条2項前段)。ただし, 売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合を除きます(同条3項,これは,当然ですよね)。
 
 上記の通知は,直ちに発することを原則としますが,売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合には(隠れた瑕疵),猶予期間があり,買主が6カ月以内にその瑕疵を発見したときに,直ちに通知すればよいとされています(同条2項後段)。

 この商法526条2項後段は,そもそも解りにくい条文ですが,目的物に隠れた瑕疵があって,買主が6カ月以内に瑕疵を発見することができなかったときはどうなるのかが問題です。通説及び判例は,買主は,売主に対して責任追及をすることができなくなると解する立場にあります(最判S47.1.25参照)。

 しかし,商法526条2項後段は,「・・・発見したときも,同様とする。」ですから,前段と同様,つまり・・・買主は・・・請求することができない。とすれば,「発見しなかったときは,前段と同様ではない」・・・つまり,請求することができるとなるようにも読めます。しかし,そのように解すると,この場合に,商法526条の趣旨に反してしまいます。

 また,同じ箇所(商法526条2項後段)を読んで,気づくもうひとつのことは,「瑕疵」とあるけれど,数量不足がないということです。同条2項前段は,瑕疵と数量不足であるのに,数量不足がない。どうしてか。どう解釈したらよいのか。

 通説は,数量不足についても,適用があることと解しています。規定がないことについては,「受取時に発見できない数量不足などありえないと,立法当初は考えられたのかもしれない。」(有斐閣アルマ 商法総則・商行為法第2版P222)とあります。そして,同書は,続けて,「今日のような取引状況にあっては,もはや現実的な想定とはいえないであろう。」としています。

 上記2点については,平成17年の商法改正というチャンスがあったのですから,そのときに,改正を加えて解決すればよかったのにと思います。立法担当者は,それどころではなかったのかもしれませんが・・・。

つづく。

買主の検査義務と通知義務 商法526条 その1 [商法総則・商行為法]

買主の検査義務と通知義務 商法526条 その1

 商法総則や商行為法は,民法の特別法ですから,商法総則・商行為法の勉強は,民法の勉強ともなります。どこが違うのかを意識すれば,記憶定着の程度が格段に違います。

 さて,そこで,今回のテーマは,買主の検査義務と通知義務なのですが,これに関係する民法の規定を先に掲げておくことにします。どのような条文が登場するか?

 民法の復習です。読んで確認しておきましょう。今日は,条文だけにとどめます。

 (権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)
民法563条  売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
2  前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。
3  代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。

民法564条  前条の規定による権利は、買主が善意であったときは事実を知った時から、悪意であったときは契約の時から、それぞれ1年以内に行使しなければならない。

(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
民法565条  前2条の規定は、数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。

(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
民法566条  売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2  前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3  前2項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。

(売主の瑕疵担保責任)
民法570条  売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
(債権等の消滅時効)

民法167条
債権は,10年間行使しないときは,消滅する。
2 略
商法526条は,これらに関する特則となります。 


(買主による目的物の検査及び通知)
商法526条  商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2  前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が6箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3  前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。

売主の供託権・自助売却権 商法524条 [商法総則・商行為法]

 売主の供託権・自助売却権 商法524条

 民法494条 債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。

 民法497条 弁済の目的物が供託に適しないとき、又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるときは、弁済者は、裁判所の許可を得て、これを競売に付し、その代金を供託することができる。その物の保存について過分の費用を要するときも、同様とする。
民法495条3項
前条の規定により供託をした者は,遅滞なく,債権者に供託の通知をしなければならない。

 商法524条  商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、売主は、その物を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができる。この場合において、売主がその物を供託し、又は競売に付したときは、遅滞なく、買主に対してその旨の通知を発しなければならない。
2  損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、前項の催告をしないで競売に付することができる。
3  前2項の規定により売買の目的物を競売に付したときは、売主は、その代価を供託しなければならない。ただし、その代価の全部又は一部を代金に充当することを妨げない。

 売主の供託権
商法524条1項前段は,商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、売主は、その物を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができるとしていますが,この商人間の売買に関する売主の供託権については,民法の弁済供託に大きな修正は加えられてはいません。民法は,債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができるとしているからです。されているからです(民法494条)。

商事売買における売主の供託に関する負担の軽減としては,供託の通知について発信主義がとられている点があります(民法495条3項と商法524条後段)。

 売主の自助売却権
 ここでいう売主の自助売却権とは,商人間の売買において,買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、売主は、相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができます(商法524条1項前段)。もっとも,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、催告をしないで競売に付することができます(同条2項)。 これを売主の自助売却権といいます。
  以上により,売買の目的物を競売に付したときは,売主は,その代価を供託しなければならないとされますが(同条3項本文),しかし,その代価の全部又は一部を代金に充当することができるとされています(同ただし書)。

 民法においても,弁済者の自助売却権が認められています。しかし,民法では,自助売却権は,弁済の目的物が供託に適しないとき、又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるとき、その物の保存について過分の費用を要するときに限定されています。それだけでなく。裁判所の許可を要することとされています。加えて,競売による売却代金は,必ず供託しなければならず,債務に充当することはできないことになっています。

 このような民法の規定は,売主の立場からして,迅速性に欠け,目的物の価格の変動が激しいことが想定される商事売買では,売主の利益が十分に保護されません。そこで,商人間の売買においては(なお,双方の当事者にとって商行為であることを要するとするのが通説です),買主の受領拒絶又は受領不能があれば,売主は,目的物を供託することができるだけでなく,裁判所の許可を要することなく,常に,直ちに競売することができ,さらに,その競売による売却代金(代価)の全部又は一部を売買代金債務に充当することができることとしたものです。


定期売買 商法525条 [商法総則・商行為法]

 定期売買 商法525条

 商法525条(定期売買の履行遅滞による解除)は,民法542条(定期行為の履行遅滞による解除権)の特則(特例)です。条文を並べます。比較です。


 民法542条  契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。

 商法525条  商人間の売買において、売買の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、直ちにその履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみなす。

 定期売買とは,契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達しないものをいいます。性質上の定期売買の例として,書中見舞いとして得意先に配布する目的でした大量のうちわの売買(大判T9.11.15)輸出用のクリスマス用品の売買(大判S17.4.4),暦の売買(大阪区判T7.5.15)等があります。

 民法の一般原則によれば,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができるとされます(民法542条)。

 これに対して,商事売買においては,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、直ちにその履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみなすとされ(商法525条),解除の意思表示をすることなく,時期の経過とともに,当然に解除の結果を生ずることになります。

 商法525条は,商事売買取引の迅速な処理を図るとともに売主の保護を図ることを目的としています。時期の経過とともに当然に解除されたものとみなされるのですから,迅速な処理ということは,明白ですが,では,どこが売主の保護なのでしょうか?

 売主の目から見ます。民法の規定によれば,売主が履行をしないで,その時期を経過したときは,買主は,催告をすることなく,直ちにその契約の解除をすることができる・・・解除の効果を生ずるためには,売主の解除の意思表示が必要です。ということは,買主は,解除をせずに請求するか,解除をするか選択できることになります。そうすると,買主は,目的物の価格の騰落によって,投機を行うことが可能となります。買主は,売主の危険において目的物の価格が急騰すれば,履行の請求をし,急落すれば,契約を解除するということができます。このような不安定な地位に立たされないようにするためには,相当の期間を定めてその期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をしなければなりません(民法547条)。商法525条は,売主がそのような立場に立たされることから救うことになります。

 ところで,平成17年の商法525条の改正は,単なる口語化にとどまるものではなく,実質的な改正といってもよい改正が行われました。

 旧商法525条は,次のようになっていました。
売買ノ性質又ハ当事者ノ意思表示ニ依リ一定ノ日時又ハ一定ノ期間内ニ履行ヲ為スニ非サレハ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ於テ当事者ノ一方カ履行ヲ為サスシテ其時期を経過シタルトキハ相手方ハ直チニ其履行ヲ請求スルニ非サレハ契約ノ解除ヲ為シタルモノト看做ス

 くらべてみてすぐわかるところがあります。旧商法には,「商人間の売買において」がありませんでした。それゆえに争いがありました。通説及び判例(東京控判T15.9.15)は,商人間の売買に限ると解していましたが,商人間の売買に限られないとする有力な反対説がありました。平成17年の商法改正により,この争いに終止符が打たれたことになります。

商事売買 その1 [商法総則・商行為法]

 商事売買 その1

 商法第2章は,売買と題して,商事売買に関する5カ条を置いています。これらの規定は,民法の売買に関する規定の特則ですが,商人間の売買であって,しかも,当事者双方のために商行為である売買に関するものです。

 これらの規定は,民法の売買に関する特則なのですが,なぜにこのような規定が置かれているのか。それは,商事売買取引の迅速な処理を図るとともに売主の保護を図ることを目的としています。これは,商取引においては,その継続性,反復性,集団性から,迅速な処理が民法よりも一層強く要請されるし,商事売買では,その当事者がその世界における専門的知識を有する商人であるため,相当な期間内に一定の判断をして契約関係を速やかに終了させることができるからです。

 売主の保護?買主の保護の間違いではないのですかと言いたい人もいるかと思いますが,条文を読んでいけば,売主の保護だということが理解できます。売主の利益を強く保護するのは,売主の立場からみて特に取引の迅速な処理の要請があるということですが,それでは,不公平ではないかというと,商人間の売買ですから,商人はあるときは売主になり,あるときは買主となるということでしょうから(地位の互換性),買主になった場合に不利益な立場に立つことも許されてよいと考えられるからです。

 さて,それで,その5カ条をまず,読んでおきましょう。一度,読んで脳のどこかに入れておきましょう。来年,ひょっとしたら,役に立つかもしれません。この部分は,平成17年の商法改正で口語化されていますから,読みやすくなっています。

(売主による目的物の供託及び競売)
第524条  商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないとき は、売主は、その物を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができる。この場合 において、売主がその物を供託し、又は競売に付したときは、遅滞なく、買主に対してその旨の通知を発しな ければならない。
2  損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、前項の催告をしないで競売に付することができ る。
3  前2項の規定により売買の目的物を競売に付したときは、売主は、その代価を供託しなければならない。た だし、その代価の全部又は一部を代金に充当することを妨げない。

(定期売買の履行遅滞による解除)
第525条  商人間の売買において、売買の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間  内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないで その時期を経過したときは、相手方は、直ちにその履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみ なす。

(買主による目的物の検査及び通知)
第526条  商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査し なければならない。
2  前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又は その数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又 は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の 目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が6箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3  前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。

(買主による目的物の保管及び供託)
第527条  前条第一項に規定する場合においては、買主は、契約の解除をしたときであっても、売主の費用を  もって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならない。ただし、その物について滅失又は損傷のおそれ があるときは、裁判所の許可を得てその物を競売に付し、かつ、その代価を保管し、又は供託しなければなら ない。
2  前項ただし書の許可に係る事件は、同項の売買の目的物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
3  第1項の規定により買主が売買の目的物を競売に付したときは、遅滞なく、売主に対してその旨の通知を  発しなければならない。
4  前3項の規定は、売主及び買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の  区域内にある場合には、適用しない。

第528条  前条の規定は、売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合における当該売主か ら買主に引き渡した物品及び売主から買主に引き渡した物品の数量が注文した数量を超過した場合における 当該超過した部分の数量の物品について準用する。


 さて,次回は,このうち,会社法525条 定期売買の履行遅滞による解除について書こうと思います。民法との比較になります。民法542条です。

最判平成20年2月22日 会社は,商人か。 [判例]

 会社は,商人か。

 会社法は,会社が商人であるかどうかについて規定を置いていません。
 最判平成20年2月22日(民集第62巻2号576頁)は,会社は,商人であると判示しました。

 昨日は,2月26日の最高裁判決でしたが,今日は,その数日前,2月22日の最高裁判決です。新商法及び会社法のもとで,会社が商人であるかどうかについて判示しています。

 この事案は,特例有限会社である甲会社を債権者とし,乙を債務者とする債権を担保するため,乙所有の不動産に抵当権が設定されていたのですが,乙が,原審第1回口頭弁論期日において,当該被担保債権につき商法552条による5年の消滅時効が完成しているとしてこれを援用したというものです。そこで,商法522条の適用が問題となるのです。

 ここで,先に問題となる条文を掲げておくことにします。

 商法522条
 商行為によって生じた債権は,この法律に別段の定めがある場合を除き,5年間行使しないときは,時効によって消滅する。ただし,他の法令に5年間より短い時効期間の定めがあるときは,その定めるところによる。

 商法4条1項
この法律において「商人」とは,自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。

 会社法5条
 会社(外国会社を含む。次条第1項,第8条及び第9条において同じ。)がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は,商行為とする。

上記の消滅時効にかかったとされた債権が,「商行為によって生じた債権」であるかどうかが問題となるのですが,原審は,当該債権が商行為によって生じた債権に当たるということはできないとして,時効消滅していない旨を判示しました。

「被上告人の代表取締役であるAは,小中学校の同窓であり,C商工会の理事長(A)と理事(上告人)として親交のあった上告人からの依頼を受け,博多駅前の土地を整理して転売するために1億円を必要としていたBの資金に充てるため,「男らしくバンと貸してやるという気持ち」で,自己が代表取締役を務める有限会社である被上告人において上告人の依頼に応じることとし,上告人が竹馬の友であることを強調して,被上告人の経理担当者をして,被上告人がその取引銀行から融資を受けるための手続をさせ,融資を受けた1億円を被上告人が上告人又はBに貸し付けた(以下,この貸付けを「本件貸付け」という。)ものであるから,本件貸付けは被上告人の営業とは無関係にAの上告人に対する情宜に基づいてされたものとみる余地がある。そうすると,本件貸付けに係る債権が商行為によって生じた債権に当たるということはできず,上記債権には商法522条が適用されないから,上告人の消滅時効の主張はその前提を欠く。」

 これに対して,最高裁判所は,次のように,原審の判断を否定しました。
「しかしながら,原審の本件貸付けに係る債権が商行為によって生じた債権に当たるということはできないとする判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 会社の行為は商行為と推定され,これを争う者において当該行為が当該会社の事業のためにするものでないこと,すなわち当該会社の事業と無関係であることの主張立証責任を負うと解するのが相当である。なぜなら,会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は,商行為とされているので(会社法5条), 会社は,自己の名をもって商行為をすることを業とする者として,商法上の商人に該当し(商法4条1項),その行為は,その事業のためにするものと推定されるからである(商法503条2項。同項にいう「営業」は,会社については「事業」と同義と解される。)。
 前記事実関係によれば,本件貸付けは会社である被上告人がしたものであるから,本件貸付けは被上告人の商行為と推定されるところ,原審の説示するとおり,本件貸付けがAの上告人に対する情宜に基づいてされたものとみる余地があるとしても,それだけでは,1億円の本件貸付けが被上告人の事業と無関係であることの
立証がされたということはできず,他にこれをうかがわせるような事情が存しないことは明らかである。
 そうすると,本件貸付けに係る債権は,商行為によって生じた債権に当たり,同債権には商法522条の適用があるというべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」


最判平成20年2月26日  [平成22年度司法書士試験筆記試験]

 今年の司法書士試験の商法の解説を書いたのですが,今,条文が間違っていないか,打ち間違いがないか,文章がおかしくないか等々,見直しをしています。昨日,見たところで,ここはブログに書いておこうと思った箇所があります。

 さきほど,再録シリーズの一つを載せたものの,思い立ったら,忘れないうちにこの箇所について書かなければならないと思い,書き始め,以下と変更することにしました。

 今年の司法書士試験の商法の部で,久しぶりに,判例を問う問題が出題されました。憲法,民法,刑法,民訴では,判例の趣旨に照らし・・・というのは珍しいことではありませんが,商法では,珍しいものです。しかも,最近の判例についても問われました。午前の部第34問です。

第34問 会社法上の訴えに関する次のアからオまでの記述のうち,判例の趣旨に照らして誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア 株主は,募集に係る株式の発行がそれを差し止める旨の仮処分命令に違反してされた場合には,当該仮  処分命令に違反することを無効原因として,新株発行の無効の訴えを提起することはできない。
イ 株主は,株主総会の決議の取消しの訴えを提起した場合において,当該株主総会の決議の日から3か月が 経過したときは,新たな取消し事由を追加主張することはできない。
ウ 株主は,退任後もなお役員としての権利義務を有する者については,その者が職務の執行に関し不正の行為をした場合であっても解任の訴えを提起することはできない。
エ 株主は,募集に係る株式の発行がされた後は,当該株式の発行に関する株主総会の決議の無効確認の  訴えを提起することはできない。
オ 株主は,他の株主に対する株主総会の招集手続の瑕疵を理由として,株主総会の決議の取消しの訴えを 提起することはできない。


いずれも,判例があるのですが,最近の判例を問うを取り上げます。最判平成20年2月26日です。

 この判決で注目するのは,会社法346条1項に基づき退任後もなお会社の役員としての権利医務を有する者を役員権利義務者と名付けている点ですが,この判決の結論は,問題文ウのとおり,解任の訴えを提起すること,つまり,解任請求をすることは許されないとするものです(ウは正しい記述ということになります)。

最判平成20年2月26日 民集第62巻2号638頁です。

 まず,結論として,「会社法346条1項に基づき退任後もなお会社の役員としての権利義務を有する者(以下「役員権利義務者」という。)の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実(以下「不正行為等」という。)があった場合において,同法854条を適用又は類推適用して株主が訴えをもって当該役員権利義務者の解任請求をすることは,許されないと解するのが相当である。」としています。

次に理由です。形式的理由(条文上の根拠)です。 「同条は,解任請求の対象につき,単に役員と規定しており,役員権利義務者を含む旨を規定していない。」ことを挙げています。そして,実質的理由として,「同法346条2項は,裁判所は必要があると認めるときは利害関係人の申立てにより一時役員の職務を行うべき者(以下「仮役員」という。)を選任することができると定めているところ,役員権利義務者に不正行為等があり,役員を新たに選任することができない場合には,株主は,必要があると認めるときに該当するものとして,仮役員の選任を申し立てることができると解される。そして,同条1項は,役員権利義務者は新たに選任された役員が就任するまで役員としての権利義務を有すると定めているところ,新たに選任された役員には仮役員を含むものとしているから,役員権利義務者について解任請求の制度が設けられていなくても,株主は,仮役員の選任を申し立てることにより,役員権利義務者の地位を失わせることができる。」としています。

再録 発起人の員数 [Twitterから]

 再録シリーズが続きます。今年の試験問題に関連するものを再録して,読んでもらおうと思い立ち,始めましたが,これをtwitter関連に拡大し,これまで書いてきたものの中から,探し出してきます。これまで書いたものを何度か読んでもらいたいので,つづけようかなと思います。試験問題関連もあったら,また再録したいと思います。この機会に,色をつけたり,太文字にしたりして,少しは,読みやすくしようと思います。

 今日は,昨日のtwitter関連で,発起人の員数に関するものです。

 平成2年の商法改正は,重要な事項の改正をいくつも行っているのですが,第一に思い出すのは,株式会社における発起人の員数の規制の撤廃でしょうか。それまで,株式会社の設立には,7人以上の発起人を要するものとされていました。発起人は,必ず,株主になりますから,株式会社の設立当初は,株主は,最低7人(発起設立)か8人(募集設立)でした。この規制を撤廃して,現在のように,発起人は,1人で構わないとしました。これによって,会社の設立の当初から,株式会社において,一人会社が認められるようになったのでした。

 発起人について,一定の員数を要求したのは,株式会社の設立の確実を期すためで,7人以上としたのは,そのための適当な数がそのあたりということでしょうね(「7人の侍」ですね)。では,その規制の撤廃の理由はどこにあったのでしょうか。立法担当官は,次のように書かれています(大谷禎男著「改正会社法」P33)。

  「しかし,わが国の株式会社の多くは,個人企業の法人成りの形で設立されており,この場合に,企業主は,通常,法人成りを機に他人の参加を得て共同企業としたいとの意図を持っているわけではない。会社が企業分割的な子会社の設立を企図する場合も同様である。このような会社設立の実態に照らすと,旧法165条は,多くの場合に,建前を整えるためだけの操作を強要していたことになる。
 しかも,発起人の員数の規制は,名目的な発起人を用意することによって容易に満たすことが可能であり,したがって規制としての実質的な機能はほとんどなく,かえって法律を軽視する風潮を助長しかねない。また,名目的な発起人が置かれる結果,後に発起人の責任追及や権利の帰属をめぐる無益な法律紛争を惹起するというような弊害もある。」
これに続けて,「会社債権者の保護は,発起人の員数の規制によるよりも,相当額の危険資本の拠出の確保と発起人および最初の取締役の責任の強化,さらには会社財産の個人財産との分別管理の徹底によって賄う方が合理的である。」と書かれています。