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最判昭和47年6月15日 [平成22年度司法書士試験筆記試験]

 最判昭和47年6月15日(民集26巻5号984頁)

 「ところで、原審の確定した事実によれば、上告人の取締役への就任は、右会社の創立総会または株主総会の決議に基づくものではなく、まつたく名目上のものにすぎなかつたというのである。このような場合においては、上告人が同会社の取締役として登記されていても、本来は、商法266条ノ3第1項にいう取締役には当たらないというべきである。けだし、同条項にいう取締役とは、創立総会または株主総会において選任された取締役をいうのであつて、そのような取締役でなければ、取締役としての権利を有し、義務を負うことがないからである。
 商法14条は、「故意又ハ過失ニ因り不実ノ事項ヲ登記シタル者ハ其ノ事項ノ不実ナルコトヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ズ」と規定するところ、同条にいう「不実ノ事項ヲ登記シタル者」とは、当該登記を申請した商人(登記申請権者)をさすものと解すべきことは諭旨のいうとおりであるが、その不実の登記事項が株式会社の取締役への就任であり、かつ、その就任の登記につき取締役とされた本人が承諾を与えたのであれば、同人もまた不実の登記の出現に加功したものというべく、したがつて、同人に対する関係においても、当該事項の登記を申請した商人に対する関係におけると同様、善意の第三者を保護する必要があるから、同条の規定を類推適用して、取締役として就任の登記をされた当該本人も、同人に故意または過失があるかぎり、当該登記事項の不実なことをもつて善意の第三者に対抗することができないものと解するのを相当とする。
 上告人が前記訴外会社の取締役に就任した旨の登記につき、同人が承諾を与えたことは、前示のとおりであり、同人が右登記事項の不実であることを少なくとも過失によつて知らなかつたことは原審の適法に確定するところであるから、同人は、右登記事項の不実であること、換言すれば同人が同訴外会社の取締役でないことをもつて善意の第三者である被上告人に対抗することができずその結果として、原審の確定した事実関係のもとにおいては、上告人は被上告人に対し同法266条の3にいう取締役としての責任を免れ得ないものというべきである。」

 商法14条 ⇒ 現商法9条2項,会社法908条2項
 商法266条ノ3第1項 ⇒ 会社法429条1項

 上記のように,最高裁判所は,旧商法14条(不実登記の効力)の類推適用という方法を経由することにより,旧商法266条ノ3による名目取締役の責任を肯定しています。以下,会社法の条文に置き換えて説明することにします。

 選任決議がない取締役は,会社法429条1項にいう役員等(取締役)ではない。⇒ しかし,就任の登記につき取締役とされた本人が承諾を与えた。 = 不実の登記の出現に加功した。 ⇒ 善意の第三者を保護する必要がある ⇒ 会社法908条2項の類推適用(不実の事項を登記した者には当たらない) ⇒ 当該登記事項の不実なことをもつて善意の第三者に対抗することができない ⇒ つまり,取締役ではないことを善意の第三者に対抗することができない ⇒ 善意の第三者との関係では,会社法429条1項の取締役に当たる。 

 平成22年度司法書士試験午前の部第31問 
 教授: 表見取締役が故意又は過失によりその登記につき承諾を与えていたときは,当該表見取締役は,会社法第908条第2項の類推適用により,自己が取締役でないことをもって善意の第三者に対抗することができず,会社法第429条第1項の「取締役」に該当し,同項所定の第三者に生じた損害を賠償する責任を免れないとの見解があります。   この見解が,会社法第908条第2項を直接適用するとしていないのは,なぜですか。  学生:ア 会社法第908条第2項の「不実の事項を登記した者」には,当該登記を申請した会社だけではなく,不実の登記行為に加功した者も含まれるからです。

 この見解は,つまり,判例の見解になるわけですが,上掲判決2段目にあるように,「不実の事項を登記した者」は,登記を申請した商人(登記申請権者)…ここでは,会社です…をさすと解しているから,直接適用することはできない,類推適用だということになります。不実の登記行為に加功した者も含むというように拡張して解釈するのであれば,直接適用となります。したがって,アは,明らかに誤った記述となります。

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